ゾルゼロ
敵地ではどれだけ感覚を研ぎ澄ませようが安心はできない。ゼロロは張り詰めた空気の中でそっと息を吸う。ここなら安心だろう、仮眠のために移動した暗闇で腰を下ろす。人の気配はない。ゼロロの隣にはゾルルの姿が闇に溶け込んでいた。ゼロロは目を閉じる。真っ暗な視界を更に暗くして眠りにつこうとする。ゾルルはその様子を眺めていた。ガスマスクの奥にある見えない顔を思った。ゾルルは密かにゼロロに思いを寄せていた。
しばらく二人は目を閉じていたのだが、突如現れた気配に危機を察知する。ゼロロは目を開き左腕を構える。ゾルルも同様に左腕から刃を伸ばした。
「ミャア」
気配の正体は猫だった。白い猫は前足で顔を撫でてふーっと伸びをする。二人は構えを崩すと溜め息を吐いた。
「脅かさないでよ……」
ゼロロは猫を見ながら言う。ゾルルはただ黙ってその猫を見つめていた。
「それにしても、こんなところに猫が迷い込むなんて」
ゼロロは辺りを見回す。他に気配は感じられない。
「春、だから……か」
ゾルルは口を開く。ゼロロはペコポンの言葉に「猫の恋」という言葉があったのを思い出す。「ハイク」では「春の季語」だとか。とにかく春は猫の季節なのだ。冬が明けて繁殖期に入った猫がこの辺りをうろついているのだとしたら不思議ではない。ゼロロは目を閉じる。猫は遠くへ歩いて行った。ゾルルは見えなくなるまで猫を眺めていた。
二人の睡眠を妨げたのはまたしても猫だった。
「ニャ、フニャァァァ!」
「何!?」
ゼロロは飛び起きると反射的にゾルルを見た。ゾルルは眠そうな顔をして猫を眺めていた。
「猫だ……」
ゾルルはそう言ってゼロロを見る。ゼロロはゾルルが見ていた猫を見た。寝起きでぼやけた目が段々とはっきりしてくる。先程いた白い猫と、もう一匹茶色の猫がいた。
「ニャオオオオ!」
声の主はその白い猫だった。叫ぶような盛りのついた猫の発する声が、辺りに響く。
「……交尾だ」
ゾルルはそう言ってふぅ、と息を吐く。ゼロロはなるほど、と返したがその続きの言葉が見つからなかった。まさかここで交尾を始めるなど誰が思ったことか。妙に気まずくなってゼロロは寝たふりをしようと体を倒す。ぎゅっと目を閉じても耳は塞げない。猫の声が耳をつんざく。はっきり言って睡眠の妨げだった。
「場所を、移すか……?」
ゾルルはゼロロに言った。
「いいよ、眠いし」
ゼロロはそう言って両手で耳を塞いだ。猫に対するせめてもの抵抗だった。ゾルルはそんなゼロロを見下ろしながら思った。ゼロロはどんな声で鳴くのだろうか。それはほんの冗談だった。口にしたらきっと怒られる、いや殴られてもおかしくない。ゾルルは猫を見つめる。あの白猫にゼロロを重ねた。ゾルルの手はゼロロの手に触れた。頑なに耳を塞ぐ手の上からゾルルの手が握り込む。ゼロロは目を開けてゾルルを見上げた。
「何? 僕眠いんだけど」
ゾルルの手が離れる。
「……すまん」
ゾルルは行き場の無くした手を地面につけた。するとその手をゼロロの手が掴んだ。
「早く寝なよ」
ゼロロはそう言って目を閉じた。ゾルルはゼロロの顔を見つめる。ゼロロはどんな顔でどんな声で、そんなことを思ってしまった。ゾルルは邪念を振り払い目を閉じる。触れている手が温かくいい夢を見られそうな気がした。
しばらく二人は目を閉じていたのだが、突如現れた気配に危機を察知する。ゼロロは目を開き左腕を構える。ゾルルも同様に左腕から刃を伸ばした。
「ミャア」
気配の正体は猫だった。白い猫は前足で顔を撫でてふーっと伸びをする。二人は構えを崩すと溜め息を吐いた。
「脅かさないでよ……」
ゼロロは猫を見ながら言う。ゾルルはただ黙ってその猫を見つめていた。
「それにしても、こんなところに猫が迷い込むなんて」
ゼロロは辺りを見回す。他に気配は感じられない。
「春、だから……か」
ゾルルは口を開く。ゼロロはペコポンの言葉に「猫の恋」という言葉があったのを思い出す。「ハイク」では「春の季語」だとか。とにかく春は猫の季節なのだ。冬が明けて繁殖期に入った猫がこの辺りをうろついているのだとしたら不思議ではない。ゼロロは目を閉じる。猫は遠くへ歩いて行った。ゾルルは見えなくなるまで猫を眺めていた。
二人の睡眠を妨げたのはまたしても猫だった。
「ニャ、フニャァァァ!」
「何!?」
ゼロロは飛び起きると反射的にゾルルを見た。ゾルルは眠そうな顔をして猫を眺めていた。
「猫だ……」
ゾルルはそう言ってゼロロを見る。ゼロロはゾルルが見ていた猫を見た。寝起きでぼやけた目が段々とはっきりしてくる。先程いた白い猫と、もう一匹茶色の猫がいた。
「ニャオオオオ!」
声の主はその白い猫だった。叫ぶような盛りのついた猫の発する声が、辺りに響く。
「……交尾だ」
ゾルルはそう言ってふぅ、と息を吐く。ゼロロはなるほど、と返したがその続きの言葉が見つからなかった。まさかここで交尾を始めるなど誰が思ったことか。妙に気まずくなってゼロロは寝たふりをしようと体を倒す。ぎゅっと目を閉じても耳は塞げない。猫の声が耳をつんざく。はっきり言って睡眠の妨げだった。
「場所を、移すか……?」
ゾルルはゼロロに言った。
「いいよ、眠いし」
ゼロロはそう言って両手で耳を塞いだ。猫に対するせめてもの抵抗だった。ゾルルはそんなゼロロを見下ろしながら思った。ゼロロはどんな声で鳴くのだろうか。それはほんの冗談だった。口にしたらきっと怒られる、いや殴られてもおかしくない。ゾルルは猫を見つめる。あの白猫にゼロロを重ねた。ゾルルの手はゼロロの手に触れた。頑なに耳を塞ぐ手の上からゾルルの手が握り込む。ゼロロは目を開けてゾルルを見上げた。
「何? 僕眠いんだけど」
ゾルルの手が離れる。
「……すまん」
ゾルルは行き場の無くした手を地面につけた。するとその手をゼロロの手が掴んだ。
「早く寝なよ」
ゼロロはそう言って目を閉じた。ゾルルはゼロロの顔を見つめる。ゼロロはどんな顔でどんな声で、そんなことを思ってしまった。ゾルルは邪念を振り払い目を閉じる。触れている手が温かくいい夢を見られそうな気がした。
