ジラドロ
ジラドロ50の続きです
ドロロがジララに急須を贈って数日後。茶葉を買いに行くことになり二人は宇宙人街で待ち合わせをしていた。ドロロは予定より十分ほど前に目的地へ辿り着いた。周囲を見回したがジララの姿はない。自分が先に来たことに安堵し胸を撫で下ろす。数分後遠くからジララがやってくるのが見えた。不慣れな様子で辺りを見回すように歩いていた。マントを羽織っているとはいえこんな宇宙人街を堂々と歩く姿にドロロは内心肝が冷えた。宇宙指名手配の身。見つかったら強制送還どころでは済まない。だがジララは変装らしい変装もすることなく、また周りも彼がジララであることに気付く様子はない。それはジララの気配の消し方がなせるものなのか。ドロロは改めて感心するのだった。
「人混みは苦手だ」
ジララは低く呟きながら賑々しく通り過ぎる人を見た。ずっと静かな兵舎で過ごしてきたジララにとって街は落ち着かないものだった。
「お茶屋さんはあっちでござる」
ドロロは北を指さす。ジララのために少しでも静かなところへ行きたい。ドロロが足を進める方向へジララはついていく。そこはドロロがよくお茶を買いに訪れる馴染みの店だった。店の構えは日本風で太い柱に仕切られ、紺色ののれんが下がっていた。そこには漢字で「茶」と大きく書かれ、店に入る前からお茶の香りが漂うのだった。二人はのれんをくぐる。店内にはずらりと茶葉が並んでいた。店に入るや否や店員が小さな湯呑みを二人に手渡した。
「いらっしゃいませ。こちらのお茶が今月のおすすめでございます」
二人は湯呑みを受け取る。ジララは物珍しそうに中の液体を覗く。毒など入っていないのだが、つい癖でそうしてしまうのだろう。店員も驚いたようにジララを見たが、ジララは中身を確認するとお茶を一気に飲み干した。そして頷く。
「美味い」
ドロロはその様子を見ながら自分も手にしていた湯呑みを傾けた。確かに美味しい。爽やかな甘みが口の中で広がる。ジララはドロロを見た。
「普段買っているのはどれだ?」
「え、ええと、大尉のお茶は一番奥のもので」
ドロロは狭い店内をゆっくり歩く。だがジララはドロロについていくことなく首を横に振った。
「お前が普段飲んでいるものだ」
ドロロはそう言われぴたりと足を止める。そのまま反対を向き、まっすぐに指を指した。
「このお茶でござる」
ドロロは自分好みのお茶とジララのためのお茶を分けていた。そのことをジララが知っていたのかは分からない。ドロロはジララにはいつも高級なお茶を用意していた。少しでも美味しいと思って欲しい、そんな思いからだった。だからその選択に驚いた。てっきり普段ジララが飲んでいる茶葉を買うものとばかりに思っていたのだった。ジララは店員を呼び「これをくれ」とだけ言った。店員が茶葉を袋詰めしている間、二人はレジの近くで待っていた。
「帰ったらお前にもらった急須を使うぞ」
ジララは数日前ドロロからもらった墨黒の急須を思いながら言った。肝心の茶葉がなく、まだ一度も使っていなかった。
「美味しいお茶になるといいでござるな」
ドロロがそう言うとジララは少し間を置いて「違う」と言った。
「最初に飲むのはドロロだ」
「……拙者でござるか?」
ジララは黙って頷く。店員が袋詰めされた茶葉を持ってレジのカウンターへ現れた。ジララは会計を済ませ、もう慣れたようにのれんをくぐって外へ出た。ドロロはその後を追い、店員に軽く会釈をしてから外に出た。
宇宙人街を出てジララの住処へ向かった。ジララは森の奥にある空き家に住んでいるようだった。というのもドロロもよく場所が分かっておらず、案内されないと辿り着けない場所にあるからだった。ドロロには宇宙人はおろか地球人すら来ないような場所で隠居生活を送るのはなかなか粋のように感じられた。目立たず騒がず、ひっそりと毎日を過ごす。実にジララらしい。空き家の引き戸を引いて中に入る。建物は日陰にあり、部屋はいつもひんやりとしていた。ドロロは言われるがままに中に上がる。ジララは台所に立ち、やかんでお湯を沸かす。やかんなどという古いものは地球に来て初めて見たものだった。数日前ドロロにもらった包みを開け、墨黒の急須を取り出した。そしていつもドロロがやっているように茶こしに茶葉を入れる。二人は立ったままお湯が沸くのを待った。なんとなく落ち着かず、喋るわけでもなくただじっとやかんを見つめていた。少量のお湯は数分で湧いた。ふつふつと湯気を立てていたやかんから甲高い音が鳴ったのだ。ジララは素早く火を止める。そして熱々のやかんから急須へお湯を注いだ。ドロロは本当は少し冷ましてからお茶を淹れたほうが美味しいのだということは黙っておくことにした。お湯が茶葉を経由して下へ落ちていく。狭い注ぎ口へ不慣れな手つきで奮闘するジララの姿はなかなか見られるものでもない。ドロロは少し嬉しそうにそんなジララを見守っていた。湯呑みの代わりに用意した揃いの白いコーヒーカップは昔を思い出させた。ドロロはコーヒーを淹れるのが誰よりも上手かった。ジララは両手で急須を持つ。左手で蓋を押さえながらコーヒーカップにお茶を注いだ。綺麗な緑色のお茶は辺りに香りよく立ち上った。ドロロがいつも嗅いでいる香りだった。ジララはお茶を淹れ終わるとふうと息を吐いた。どうやらしばらく息を止めていたようだった。そんなジララが可愛らしくて思わずドロロの口角が上がる。気づかれても構わない、そんな心境でもあった。二人はコーヒーカップを持ってテーブルへ移動した。ジララはもともと置いてあったテーブルをそのまま使っているようだった。ドロロはテーブルにコーヒーカップを置く。ジララは早速カップに口をつけて一口啜った。ドロロはその様子を見つめていた。そして黙って頷くジララを見て自身もカップを手にした。少しだけ息を吹きかけて冷ます。そしてカップに口をつける。
「……美味しいでござる!」
ドロロは満面の笑みでそう言った。お世辞ではない、本心からの言葉だった。味はもちろん飲みつけた茶葉、だがそれ以上にジララが淹れたお茶というのがドロロにとっては非常に美味しく感じられた。
「今度は湯呑みだな」
ジララがそう言うとドロロは笑った。次のデートも決まり、お茶も美味しい。なんという幸せだろう。ドロロはもう一度お茶を飲む。喉から入った温かさが全身に広がるようにドロロは目一杯幸せを噛み締め続けた。
ドロロがジララに急須を贈って数日後。茶葉を買いに行くことになり二人は宇宙人街で待ち合わせをしていた。ドロロは予定より十分ほど前に目的地へ辿り着いた。周囲を見回したがジララの姿はない。自分が先に来たことに安堵し胸を撫で下ろす。数分後遠くからジララがやってくるのが見えた。不慣れな様子で辺りを見回すように歩いていた。マントを羽織っているとはいえこんな宇宙人街を堂々と歩く姿にドロロは内心肝が冷えた。宇宙指名手配の身。見つかったら強制送還どころでは済まない。だがジララは変装らしい変装もすることなく、また周りも彼がジララであることに気付く様子はない。それはジララの気配の消し方がなせるものなのか。ドロロは改めて感心するのだった。
「人混みは苦手だ」
ジララは低く呟きながら賑々しく通り過ぎる人を見た。ずっと静かな兵舎で過ごしてきたジララにとって街は落ち着かないものだった。
「お茶屋さんはあっちでござる」
ドロロは北を指さす。ジララのために少しでも静かなところへ行きたい。ドロロが足を進める方向へジララはついていく。そこはドロロがよくお茶を買いに訪れる馴染みの店だった。店の構えは日本風で太い柱に仕切られ、紺色ののれんが下がっていた。そこには漢字で「茶」と大きく書かれ、店に入る前からお茶の香りが漂うのだった。二人はのれんをくぐる。店内にはずらりと茶葉が並んでいた。店に入るや否や店員が小さな湯呑みを二人に手渡した。
「いらっしゃいませ。こちらのお茶が今月のおすすめでございます」
二人は湯呑みを受け取る。ジララは物珍しそうに中の液体を覗く。毒など入っていないのだが、つい癖でそうしてしまうのだろう。店員も驚いたようにジララを見たが、ジララは中身を確認するとお茶を一気に飲み干した。そして頷く。
「美味い」
ドロロはその様子を見ながら自分も手にしていた湯呑みを傾けた。確かに美味しい。爽やかな甘みが口の中で広がる。ジララはドロロを見た。
「普段買っているのはどれだ?」
「え、ええと、大尉のお茶は一番奥のもので」
ドロロは狭い店内をゆっくり歩く。だがジララはドロロについていくことなく首を横に振った。
「お前が普段飲んでいるものだ」
ドロロはそう言われぴたりと足を止める。そのまま反対を向き、まっすぐに指を指した。
「このお茶でござる」
ドロロは自分好みのお茶とジララのためのお茶を分けていた。そのことをジララが知っていたのかは分からない。ドロロはジララにはいつも高級なお茶を用意していた。少しでも美味しいと思って欲しい、そんな思いからだった。だからその選択に驚いた。てっきり普段ジララが飲んでいる茶葉を買うものとばかりに思っていたのだった。ジララは店員を呼び「これをくれ」とだけ言った。店員が茶葉を袋詰めしている間、二人はレジの近くで待っていた。
「帰ったらお前にもらった急須を使うぞ」
ジララは数日前ドロロからもらった墨黒の急須を思いながら言った。肝心の茶葉がなく、まだ一度も使っていなかった。
「美味しいお茶になるといいでござるな」
ドロロがそう言うとジララは少し間を置いて「違う」と言った。
「最初に飲むのはドロロだ」
「……拙者でござるか?」
ジララは黙って頷く。店員が袋詰めされた茶葉を持ってレジのカウンターへ現れた。ジララは会計を済ませ、もう慣れたようにのれんをくぐって外へ出た。ドロロはその後を追い、店員に軽く会釈をしてから外に出た。
宇宙人街を出てジララの住処へ向かった。ジララは森の奥にある空き家に住んでいるようだった。というのもドロロもよく場所が分かっておらず、案内されないと辿り着けない場所にあるからだった。ドロロには宇宙人はおろか地球人すら来ないような場所で隠居生活を送るのはなかなか粋のように感じられた。目立たず騒がず、ひっそりと毎日を過ごす。実にジララらしい。空き家の引き戸を引いて中に入る。建物は日陰にあり、部屋はいつもひんやりとしていた。ドロロは言われるがままに中に上がる。ジララは台所に立ち、やかんでお湯を沸かす。やかんなどという古いものは地球に来て初めて見たものだった。数日前ドロロにもらった包みを開け、墨黒の急須を取り出した。そしていつもドロロがやっているように茶こしに茶葉を入れる。二人は立ったままお湯が沸くのを待った。なんとなく落ち着かず、喋るわけでもなくただじっとやかんを見つめていた。少量のお湯は数分で湧いた。ふつふつと湯気を立てていたやかんから甲高い音が鳴ったのだ。ジララは素早く火を止める。そして熱々のやかんから急須へお湯を注いだ。ドロロは本当は少し冷ましてからお茶を淹れたほうが美味しいのだということは黙っておくことにした。お湯が茶葉を経由して下へ落ちていく。狭い注ぎ口へ不慣れな手つきで奮闘するジララの姿はなかなか見られるものでもない。ドロロは少し嬉しそうにそんなジララを見守っていた。湯呑みの代わりに用意した揃いの白いコーヒーカップは昔を思い出させた。ドロロはコーヒーを淹れるのが誰よりも上手かった。ジララは両手で急須を持つ。左手で蓋を押さえながらコーヒーカップにお茶を注いだ。綺麗な緑色のお茶は辺りに香りよく立ち上った。ドロロがいつも嗅いでいる香りだった。ジララはお茶を淹れ終わるとふうと息を吐いた。どうやらしばらく息を止めていたようだった。そんなジララが可愛らしくて思わずドロロの口角が上がる。気づかれても構わない、そんな心境でもあった。二人はコーヒーカップを持ってテーブルへ移動した。ジララはもともと置いてあったテーブルをそのまま使っているようだった。ドロロはテーブルにコーヒーカップを置く。ジララは早速カップに口をつけて一口啜った。ドロロはその様子を見つめていた。そして黙って頷くジララを見て自身もカップを手にした。少しだけ息を吹きかけて冷ます。そしてカップに口をつける。
「……美味しいでござる!」
ドロロは満面の笑みでそう言った。お世辞ではない、本心からの言葉だった。味はもちろん飲みつけた茶葉、だがそれ以上にジララが淹れたお茶というのがドロロにとっては非常に美味しく感じられた。
「今度は湯呑みだな」
ジララがそう言うとドロロは笑った。次のデートも決まり、お茶も美味しい。なんという幸せだろう。ドロロはもう一度お茶を飲む。喉から入った温かさが全身に広がるようにドロロは目一杯幸せを噛み締め続けた。
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