ジラドロ

 帰り道、ジララが手にしていた包みの中には陶器でできた急須が入っていた。それは帰り際にドロロに持たされたものだった。
 今日もいつものように二人はドロロの水車小屋でお茶を飲んでいた。ドロロはジララに、用意していた包みを手渡した。ジララが結び目を解くとそこには墨黒の急須があった。その様子を見ながらドロロは少し照れくさそうに言った。
「大尉にもお茶の美味しさを知って欲しいゆえ。拙者からの贈り物でござる」
 ドロロはいつもジララをもてなす際、決まって緑茶を淹れるのだった。緑茶は地球に来てから出会ったものだが、緑茶の美味しさを知り、そしてジララにもその美味しさを伝えたい一心で丁寧に茶を淹れるのだった。
 ドロロがアサシン部隊にいた頃、よくジララにコーヒーを淹れていた。ジララの好みも知り尽くしていた。誰よりもジララ好みのコーヒーを淹れられると自負していた。それは地球に来ても変わらなかった。ドロロは毎回ジララの好みを把握しながらジララ好みの美味しい茶を淹れられるようになっていた。だから今度は。そんな思いでドロロは宇宙人街へ向かった。ずらりと並ぶ急須の中で手に取ったのはざらりとした質感の黒い急須だった。ジララの肌の色に似た急須はすぐドロロの目に止まった。これなら気に入ってくれるかもしれない。そう思い購入に至った。使ってくれるかは分からなくても、いつかお茶が飲みたくなったときに急須があれば便利だと思ったのだった。
 ジララは急須を手に取るとその手触りを確かめるように指を滑らせ、持ち上げては様々な角度から眺めた。急須に直接馴染みがないのか、変わったものを見るような目で急須を眺めていた。
「茶葉を入れて、お湯を注ぐだけでござるよ。誰にでも簡単に淹れられるでござる」
 ドロロはそう言ったがジララは頷かなかった。お気に召さなかったか、ドロロはそう思ったがジララが口を開く。
「茶葉とやらはどこで手に入る」
 ジララは茶葉を買ったことなどなかったのだろう。いつもドロロが淹れている茶しか飲んだことがなければそれも納得だった。
「宇宙人街に専門店があるでござるよ。ぜひ今度一緒に……」
 そう言いかけてまるでデートの誘いだなと思う。急須を渡し、一緒に茶葉を買いに行く。そんなつもりはなかったのに計算しつくしたプランのようでドロロは恥ずかしくなった。頬を軽く赤らめ、そんなつもりではと言い訳をしたが、当のジララはドロロの慌てぶりには気がついていないようだった。
「ああ、連れて行ってくれ」
 ドロロはその言葉に少し驚きながらぎこちなく頷いた。思いがけず本当にデートになってしまった。ジララは急須の包みを結び直す。そして包みを手にしたままゆっくり立ち上がった。まだ外は明るいが時間にしてみれば夕方だった。ジララは小雪が帰ってくる前に帰るのが日課になっていた。いきなり鉢合わせしては驚かしてしまうからとジララなりの気遣いなのだろう。名残惜しさも感じながらドロロは玄関でジララの背中を見送った。握りしめた手がまだ汗ばんでいた。何度もこうして会っているというのに、未だにデートは緊張する。火照った顔を冷ますように外の空気をたっぷり浴びた。明日か明後日か、もっと先か。宇宙人街でジララとお茶を買いに行くまであと数日。
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