ジラドロ

 青紅葉に雨が落ちる。本格的な梅雨入りで初夏が嘘のように冷え込んだ。だが雨のこもったような匂いはどこか懐かしく落ち着きを与えてくれる。ドロロは窓を見る。まっすぐに落ちる雨。……ケロン星の匂いに似ている……そう思った途端、ドロロの脳裏を彼が掠めた。ずしんと胸が重くなりドロロは息を呑む。どんなに忘れようとしてもがんじがらめにされて離れることはできない。また蜘蛛の糸がドロロを苦しめる。額に滲んだ汗が頬を伝った。
(ジララ様……)
 ドロロは冷たい水を飲んだ。少しだけ心が落ち着いたように思われたが根本的な解決はしていない。もう何十年も前のことをまるで昨日のことのように思い出す。染みついた記憶は消えることはない。動こうとする体を締め付ける蜘蛛の糸。まだ操られているような、そんな気がしてならないのはきっと気のせいではないのだろう。彼ならやりかねない。遠くの星からドロロを見ることなど容易いのだろう。こっそりと姿を消して地球を訪れていても不思議ではないのが彼だ。嫌な予感がして汗が止まらない。どうしてこんなにも彼のことばかり考えてしまうのか。決して楽しかった記憶ではない。むしろ忘れてしまいたい嫌な記憶でしかないというのに。ドロロはもう一口水を飲んで溜め息を吐いた。
 ドロロはジララを好いていた。厳密にはドロロではなくゼロロの頃から。だがそれは決して許されることではない。溢れそうになる思いを必死に堪えたままアサシン部隊を離れ、それ以来彼に会ってもいなかった。どうして、彼に惹かれたのか分からない。厳しい訓練も任務も心をすり減らすものだったのに、ドロロはジララに惹かれてたまらなかった。あの目に見つめられると胸の奥がぎゅうと痛む。訓練で触れた冷たい義手から自分の熱が伝わりそうでそっと手を引いて怒られた。もう触れられることもない。触れたくても叶わない存在になった。だから、なのか。夢に見るほど恋しくてたまらない。雨がドロロをそうさせているのだろうか。彼は今どこで何をしているのか。何を考えて生きているのだろう。全てが気になった。謎は謎のまま時間だけが過ぎていく。会いたい、なんて思うこと自体が罪だというのに。ドロロは未だに心を捨てられずにいる。柔らかい心の奥を震わせて、恋い焦がれて待っている。
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