ジラドロ

 新緑の季節に強いながらも柔らかな日差しが降り注ぐ。緑に色づいた世界は瑞々しくて眩しい。ジララは初めて目にした春をその身で感じ取った。
 ドロロの住む水車小屋へと足を運ぶのは最早日課のようになっていた。小雪が学校へ行きドロロが一人になったところへジララは向かう。ドロロは快くジララを受け入れ、家へ上げるとお茶を淹れてもてなした。だがこの日はお茶ではなくコーヒーだった。
「大尉はコーヒーの方がお好きでござろう」
 ドロロはそう言ってコーヒーカップを差し出す。立ち上る湯気を目にジララは思う。地球に染まったドロロが自分のためにわざわざコーヒーを淹れてくれているのだと。その心遣いがいかにもドロロらしく、昔から変わらない。ジララは指先でコーヒーカップを持ち上げ口を付ける。
「地球にはモーニングの文化があるのでござるよ」
 ドロロが口を開く。
「朝喫茶店に行ってコーヒーを頼むとパンが無料でついてきてお得なのでござる」
 だがジララはそのモーニングには惹かれなかった。なぜなら今飲んでいるコーヒーが美味しかったからだった。ドロロはゼロロの頃よくジララにコーヒーを淹れていた。だからジララの好みがよく分かっている。理想の濃さ、温度、豆の種類までまさしく完璧だった。
「貴殿の淹れるコーヒーが一番美味い」
 ジララは呟くように言うとドロロは目を丸くしてそれから笑った。
「それはありがたいお言葉でござるな」
 ジララはパンなどに釣られて喫茶店に行くよりも、こうしてゆったりとドロロの隣でコーヒーを飲むほうが心が安らいだ。カフェインによる眠気覚ましのためでもなく、ただ味わうだけのコーヒーがこんなにも優しいものなのだと気付く。ドロロも自分のコーヒーカップへコーヒーを注いだ。ジララと同じ味を求めて好きでもない苦み走ったブラックコーヒーを飲むのだった。
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