ジラドロ

 青い空を覆う鰯雲。散り散りの細い雲に涼しい風。秋晴れと呼ぶに相応しい天気は森の中をゆったりと歩くには心地が良かった。朝のパトロールも終わり、ドロロは一人森を歩く。ふと足元を見ると日陰の紫色に目が止まった。近付いて見ると蝶……ではない、植物だ。ドロロはそれが気になり鑑定眼力を使った。その名はオキザリス・トリアングラリス。紫色をした三角の葉がトライアングルのように並んでいた。ドロロはそれから目が離せなくなった。蝶によく似た葉を見てドロロの頭の中には「彼」が浮かび上がったのだった。
 ジララ大尉はドロロのかつての師だった。ドロロにアサシンとしての全てを教えた人。そんな彼は肉体的にも精神的にも蜘蛛の糸のようにドロロを縛り付けた。蜘蛛の巣に捕まった蝶のようにその体は身動きが取れなくなる。彼の赤い糸が恐ろしくてたまらないというのに、ドロロは彼に惹かれた。恨みと共に恋焦がれた。入り乱れた感情はやがて心の澱になった。だがアサシン部隊を除隊し、自然と彼の記憶は薄らいでいった。だというのに。このようなふとしたことで彼の記憶が鮮明に蘇った。そして会いたいと強く思った。同時に記憶から消し去りたい、とも思った。
 ドロロはオキザリスから離れた。これ以上近くにいるとどうしようもなく彼を恋しくなると思ったからだった。このようなくだらないことにアサシンマジックを使ったことを彼は咎めるだろうか。彼に読心鬼属を使われたら一瞬にして露わになる恋心。隠し通せない強い思い。打ち消そうとしても決して消すことのできない記憶……仕草、声。
 修行が足りぬ、そう呟いてドロロは森の外へと足を進めた。
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