ジラドロ

 いつものようにドロロは街をパトロールしているとふわりと甘い香りがした。香りの方を見ると小さな桃色の花が咲いていた。沈丁花、ドロロはその花の名前を思う。そしてその甘い香りにいつかの記憶が頭をかすめた。それは決して甘い記憶などではない。だというのに何故か恋しくてたまらない記憶。
 もう遥か昔、最早思い出と化した存在。懐かしい声を思い出してまた彼のことを考えてしまう。
 ドロロが数百ケロン年前、アサシン部隊に所属していた時、誰よりも目をかけてくれたジララ大尉。その厳しさの合間に除く優しさがドロロの心を掴んで離さなかった。無表情な赤い目、無機質な低い声、冷たい義手。なのに何故だか彼の優しさに惹かれてたまらない……。ドロロは自分の心を呪った。心を捨てろと教わったというのに、恋心は募るばかりだった。
 ある日そんな思いがぽろりと口を着いて出た。「あなたが好きです」。正直な思いだった。だが決して口にしてはいけない、感情の塊だった。心を捨てるべきだというのにドロロはジララに恋心を抱いた。そしてそれを本人に告げた。その時口から出た声、言葉、表情全てが凍てついた。血の気が引いたように顔は青ざめ、ただ黙ってジララを見つめることしかできなかった。ジララは何も言わなかった。だが心底冷えた目をしてドロロを見た。言葉よりも重い目をしていた。
 沈丁花などケロン星には咲いていない。だがこの甘く優しい香りが何故か懐かしく、ジララを思わせた。今でも恋心を捨てることはできていない。眠れば夢で彼に会う。彼が知ったら未熟者だと笑うだろう。それでもあの声が恋しくてたまらない。ドロロは耳の奥に残った記憶をかき集めて彼の声を思い出す。それは懐かしくて優しい声だった。
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