ジラドロ

 ドロロは白いカップに注がれたコーヒーを床に置く。十月になりすっかり寒くなった今日。そこに雨が降るのだから気温は大幅に下がり涼しさを超えて寒い。だがその分ホットコーヒーが美味しい季節にもなった。ドロロは口を開く。
「大尉は雨はお好きでござるか」
「好きでも嫌いでもない」
 ジララそう言いコーヒーを啜った。本星では降らないような土砂降りから糸のように細い雨まで、地球の多様な雨をドロロは好んだ。植物の生育や恵みの雨だからといった側面もあるが、ドロロは何より雨が屋根に打ち付ける音が好きだった。建物の中にいると雨の音がよく聞こえる。するとまるで雨が壁をつくるかのように、この空間に二人きりだと強く感じられるのだ。
 コーヒーはジララの好みの味だった。ドロロの前には手裏剣の絵がついた湯呑みが置かれていた。
「コーヒーは飲まんのか」
 ドロロは首を振った。
「いいや、コーヒーも嗜むでござるよ。しかし地球のお茶が美味しくて」
 そうにこにこしながら言うドロロは本当に地球を愛しているのだなとジララは思った。
「コーヒーの淹れ方は大尉に教わったゆえ、腕には自信があるのでござるよ」
 ドロロがまだゼロロという名だった頃、ジララは兵舎でコーヒーの淹れ方を教えた。自分好みのコーヒーを淹れられるまで何度も教えた。その結果ゼロロはジララ好みのコーヒーを淹れられるようになったが、それは地球に来ても変わらなかった。このコーヒーはあの頃と同じ味がした。
 ドロロがお茶を飲むために口布を外した。ジララがその唇に見とれているとドロロが「コーヒーが冷めるでござるよ」と言った。ジララは残りのコーヒーを飲み干すと立ち上がりドロロの隣に腰掛ける。ドロロは湯飲みを持ったまま不思議そうにジララを見た。ジララの手がドロロの唇へ伸びる。そして尖った指が唇を丁寧になぞる。傷を付けないよういたわるように。ドロロは何も言えずただジララを見つめていた。
「お前の淹れるコーヒーが一番美味い」
 そう言ってドロロの唇へキスを落とす。ふわりと香るコーヒーにドロロはアサシンの兵舎を思い出していた。アサシン部隊には雨など無関係。どんな季節天候であろうが地獄のような訓練を行った。それが今や、なんと平和なことだろう。雨風をしのぐ部屋の中で任務を放棄してかつての上官とキスをしている。ジララの手がドロロの手に触れる。ドロロは湯飲みを床に置いた。お茶はまだ半分残っていた。
「……お茶が冷めるでござる」
 ジララは構うことなくドロロの頬へ手を滑らせた。
「雨が止むまで付き合ってくれ」
 ジララの唇がドロロの言葉を阻んだ。ドロロは返事の代わりに目を閉じる。そしてまだ雨がやまないよう、密かに願うのだった。
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