ジラドロ

 中秋の名月、またの名を十五夜。夜空に浮かぶ満月をジララとドロロは見上げていた。すっかり涼しくなった秋風が肌に心地良い。ドロロは月へ指を差して言った。
「月にはうさぎがいるのでござるよ」
 ドロロにしては珍しく冗談を言うのだなとジララは思った。月には月の生物がいる。うさぎという地球の生き物があのような酸素の薄い場所で生きられるはずがないと少し考えればすぐに分かるはずだ。だがドロロの表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えなかった。
「この星ではまだそのような迷信が信じられているのか」
 ジララは呆れるように言った。だがドロロは首を横に振る。
「迷信ではないでござるよ」
 ドロロの指先には月があった。何の変哲もない、遠くにあるただの星。ドロロには何が見えているのだろうとジララはドロロの目を覗き込む。
「うさぎが餅つきをしているのが見えないでござるか?」
 ドロロはジララを見たがジララは思った、これはからかわれているのではないかと。そんなふざけた光景が見えるはずがない。ジララはドロロから視線を外すと風に揺れるすすきに目をやった。と、ジララの手のひらに何かが乗った。見るとそこには白い団子があった。
「うさぎがついた餅でござるよ」
 いつの間にかドロロの手にはいくつもの団子があった。白く丸い団子が積まれていた。ジララは手のひらの餅を見た。ドロロはジララを見つめる。急かされるようにジララは団子を口へ放った。するとタイミングを見計らったかのようにドロロは口を開いた。
「なーんて。残念ながら作り話でござる。これは拙者が小雪殿とついた餅ゆえ、うさぎは月にはいないのでござる」
 ドロロは月を見た。ジララにはその目が少し寂しそうに見えた。文化の遅れた星だからこそ、夢を見ることができる。だがそれは悪くのないことなのかもしれない。ジララは腕を伸ばすとドロロの肩を抱いた。
「月に行くぞ」
「え?」
 ドロロはきょとんとした顔をしてジララを見た。
「実際に見なければ分からないだろう」
 冗談を言うドロロの真似をしているかのように真剣な顔をしてジララはそう言った。ドロロは思わず笑う。こんなジララを見たのは初めてのことだった。
「そうでござるな」
 ドロロは月を見上げた。気のせいか、月の模様はうさぎが餅をついているように見えた。
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