ジラドロ

 ジララが地球に来て十日が経過していた。ジララはドロロと剣を交えて以来何度かドロロの水車小屋を訪ねていた。小雪のいない昼間にドロロを訪ねては用もなく居座るのだった。自分の居場所がなくなった今唯一頼れる存在であるドロロはジララにとって貴重だった。そして今日もジララは来た。物音を立てず小屋の前に立つとドロロは気配に気が付いた。
「ジララ大尉」
 このような場所で気配を消すことはないのに、そう思いながらジララを小屋へ上げるとドロロはお茶を出して歓迎した。ジララは鋭い爪で傷をつけないよう丁寧に湯飲みを持ち上げた。彼は自分の行いを改めたようにドロロに一切の危害を加えなかった。
 ジララの右手の人差し指はドロロによって切り落とされていた。元々長かった金属の指が短くなっていた。不自然な短さが目に留まりドロロはその指をそっと撫でる。自分がこの指を切ったという申し訳なさと複雑さ。あの頃の長い指を思い出す。
「もう使うこともあるまい」
 ジララは言った。何も気にしていないという風に。
 ジララは地球に来て人が変わった。人が変わるのは当然のことだ。ゼロロがドロロに変わったように、ジララも変わったのだ。人差し指と共にジララは冷徹さを捨ててきたようだった。冬の冷たい風で冷えた体をあたためるようにジララはお茶を飲んだ。ドロロが入れたからなのか、そのお茶はやけに美味しく感じられた。
「小雪殿が帰られるまでまだまだ長いでござる」
 正座をしたドロロは自らの太ももをポンポンと叩く。ジララはその合図を受け取るとドロロの太ももの上に頭を置いた。ドロロのあたたかい体温を感じて心が安らいだ。自分が何から逃れようと思っていたのかさえ忘れてしまうような平和な日々。地球で隠居を試みるつもりが結局ドロロに世話になってしまっている。
「平和が一番でござるよ」
 ジララは目を閉じる。ドロロの温もりの中でいい夢が見られそうな気がした。
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