ジラドロ

 空には無数のとんぼが飛んでいる。どこまでも広がる空は見事な秋晴れ。田んぼにはふっくらと実る稲穂が黄金色に輝いて秋を知らせていた。
「すっかり秋でござるなぁ」
 電柱から見下ろすドロロはにこにこと柔らかい笑みを浮かべていた。その隣にはジララの姿があった。彼もまたドロロ同様辺りの景色を眺めていた。
 ジララが地球に来たのは十二月の初め。つまりジララにとっては地球で過ごす初めての秋だった。これから来る厳しい寒さを感じさせない穏やかな季節。だが最近朝晩は特に冷えるようになった。ジララは口を開く。
「機械の体は冷える」
 ジララの義手は秋風で冷やされていた。ドロロはその手に触れると冷たさに驚いた。骨にまで響きそうな冷たさはどこか孤独さを滲み出していた。
「俺に生身の腕があったら、お前を抱いて温められた」
 ドロロは腕を伸ばすとジララの義手に触れ、口を開く。
「こうすれば、同じ温度になれるでござるよ」
 ジララの義手がドロロに冷たさを分け与える。するとやがて二つの手は同じ温度になる。ジララはドロロの手を握り込んだ。ジララに比べて小さい手はすっぽりと手の中に収まってしまう。ドロロはジララの大きな手が好きだ。傷を付けないよう優しく触れる、強くて頼もしい、冷たい手が。その冷たさすらもジララであるような気がしていた。等しい温度になった二つの手は実際の温度以上に温かく感じられた。
 とんぼがドロロの腕に留まった。細く赤い体に透けた羽は居心地が良さそうに居座っていた。それを見てドロロは笑ったがジララはただじっととんぼを見つめていた。
「拙者が気に入ったのでござろうか」
 ドロロがそういうとジララはとんぼの羽を指先でつまみ空へ放った。とんぼはそのままどこかへ飛んでいった。
「邪魔が入った」
 その言葉はまるでドロロと二人きりでいたいと言うようでドロロは驚いた。握られた手にぎゅうと力が入る。察したようにジララはドロロを見た。ほんの少し赤らんだ頬を彼は見逃さない。ジララは手を離すとドロロの頬へ添えた。すっかりぬるくなった手はドロロの頬の熱で更に温まった。
「と、とんぼにも悪気があったわけじゃ」
 ドロロは咄嗟にそんなことを言ったがジララの耳には届いていないのか返答はない。
「……あの」
 ジララの目がドロロを見つめている。相当あのとんぼに妬いたのだろうか。しかし、まさか。所詮ただの虫だ。とはいえジララの様子のおかしさから他の理由は考えられない。
「とんぼの味方をするのか」
 突然そんなことを言われドロロは思わず笑いそうになった。ドロロは頬のジララの手を握る。
「拙者には大尉しか見えてないでござるよ」
 そう言うとドロロはマスク越しにジララにキスをした。一番分かりやすい愛情表現だと思ったのだ。ジララは相変わらずドロロをじっと見つめている。これでも足りないというのなら、ドロロは触れていない方の手で器用に口布を外す。するとジララは自らマスクを外してドロロにキスを落とした。とんぼのせいか、それともおかげか。ドロロはそんなことを考えながら目を閉じた。
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