ジラドロ

 夏らしいことをしようと線香花火を提案したのはドロロだった。以前二人で花火大会に行って、それはそれは美しい花火を見た。だがそれとは違う、もっとこぢんまりとした日本らしい花火があるのだとドロロは言った。打ち上げ花火のような華やかなものとは違う日本らしい線香花火にドロロは惹かれたのだった。
 二人は河川敷に向かった。ドロロは線香花火とろうそくとマッチを持って、薄明るい空の下でマッチを擦りろうそくに火を灯した。ゆらゆらと揺らめく火へ紫色のこよりを近付ければそれは先端に赤い玉を作る。玉は次第にぱちぱちと燃えて周囲に火花を飛び散らせる。静かだった玉が急に燃えてジララは驚いた。だがその火花もおとなしくなりぽとりと玉は落ちた。赤い玉は黒く色を変え地面に溶け込んだ。
「この玉をじっと見ていると不思議な気持ちになるのでござる」
 そう言うとドロロは紫色のこよりをジララに手渡す。ジララはそれを受け取るとろうそくへこよりを近付けた。先端が燃えくるくると赤い玉を作りジララの足元を照らした。ぼうっと光るその玉は確かに何か神秘的なもののように見えた。
「侘び寂びを感じられるでござろう」
 ドロロの口から何度か聞いたことのある侘び寂びという言葉の意味をジララはよく知らない。だが今のこの心の揺れ動きが侘び寂びというのなら、少しだけ分かるような気がした。ジララの持つこよりから玉が離れ地面へ落ちた。ドロロはその様子を見て再びこよりを手渡した。どちらが先に玉を落とすかを競うなど子どもっぽいことをする気はなかった。ただゆったりと赤い玉を眺めてジララとの時間を過ごしたかった。空は先程よりも少し暗くなった。まだこよりは残っている。ジララは手元のこよりへ火を灯すと再び赤い玉を見つめた。ドロロも新しいこよりを手にすると火を灯して赤い玉を眺めた。二人はゆっくりと流れる優しい時間に身を委ねた。
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