ジラドロ

 いつものように小雪のいない昼間の水車小屋で二人は逢瀬を重ねていた。円座に腰を下ろしてする他愛のない世間話。そのなかでドロロが言った。
「明日、町の花火大会があるのでござるよ」
 日本では夏によく花火大会が行われる、そのことをジララはドロロから教わった。夜空に打ち上がる沢山の花火は見るものを魅了する。ケロンにも花火はあるが、日本のようにカラフルで様々な形を模した花火は少ない。ケロンの科学力があれば容易くできるのであろうが、求められていないのか花火においては日本のほうが上手だとドロロは思っていた。
「一人で見るのも味気がないもの。ぜひ拙者と花火を見に行ってはくださらぬか」
 ジララは黙って頷いた。断る理由もない。ドロロは嬉しそうに笑うと、楽しみでござるなと言った。
 翌日の夕方、二人は花火大会の会場へ向かうと道の端には屋台がずらりと並んでいた。焼きそば、わたあめ、りんご飴……どれも魅力的に見えたがジララは屋台には興味なさそうにまだ花火の始まらない空を見上げていた。
 空がよく見えそうな場所へ腰を下ろして二人はまだ明るい空を眺めた。夏は日が長くもうすぐ六時だというのにまだまだ空は明るかった。今からこの広い空に花火が打ち上がると思うとドロロは期待に胸を躍らせていた。そしてジララがその花火を見てどう思うか気になっていた。
「ジララ大尉もきっと地球の花火を美しいと感じると思うでござるよ」
「……だといいな」
 本心は花火など所詮ただの火薬だと思っているのかもしれない。だがこうして花火大会へ足を運んできてくれたことがドロロは嬉しかった。長いアサシン生活で心を失った彼に、少しでも綺麗なものを見せたいと思った。
 しばらくすると会場にアナウンスが流れて花火の開始を知らせた。大きな音を立てて金色の花火が空へ打ち上がった。見事な大輪。その散り際まで美しく空を飾った。これが日本の花火だ。ドロロはその美しさに魅入られた。何発も打ち上がる花火。その度に上がる歓声と拍手。ジララはただ黙って空を見続けた。
 そして何十分もの間黙っていたかと思うと突然独り言のようにジララは呟いた。
「良いものを見せてもらった」
 轟音にかき消されそうな低い声はしっかりとドロロの耳に届いた。
 ドロロはジララと花火が見れて胸がいっぱいになった。美しいものを見るだけでも幸せだというのに、隣にジララがいることが幸せをより引き立てた。ドロロは静かに腕を伸ばすとジララの手を握り指を絡めた。そしてジララの肩に頭を預けた。ジララは何も言わずその指を握り返した。花火の作る甘い空気が二人を包んだ。
 帰り道、ジララのソーサーに二人で乗ろうとするとドロロはジララの腰へ腕を回した。離れたくないと言わんばかりにしがみつくように抱きつくドロロの頭をジララは撫でた。そしてドロロの口布を外すと軽いキスを落とした。
「……帰りたくないでござる」
 その潤んだ熱っぽい目を見てジララはもう一度キスを落とした。ドロロの手がジララのマスクを剥ぎ取る。その露わになった唇へドロロがキスをする。
 ジララはまた来年も二人で花火を見に行くのだろうとぼんやりと考えながら再びドロロへキスをした。
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