ジラドロ

 今日はエイプリルフール、つまり嘘をついてもいい日。だからといってそんな急に噓など思い浮かぶものではない。ドロロはジララと昼間の森で待ち合わせたはいいものの頭を悩ませていた。一方ジララはエイプリルフールを知ってこんなことを言った。
「俺は星に帰る」
 ドロロは笑ってそれが嘘であると簡単に見破った。話の流れ的に必然とも言えたが、ジララは面白くなさそうにドロロを見ていた。
「本当だと言ったらどうする」
「ジララ大尉が帰られるのは寂しいでござるよ」
「エイプリルフールじゃないのか」
「拙者噓は嫌いでござる」
 ドロロはアサシンのくせに嘘を嫌う。地球に来てもその根っこは変わらない。
「でもせっかくなら、今日くらい嘘をつくのもいいかもしれないでござるな」
 ドロロは一つ咳払いをして言った。
「名前を戻そうと思うでござる」
 ……ゼロロに。ドロロはそう言うとすぐさま真剣な面持ちを崩して笑った。そして懐かしいと呟く。
「ジララ大尉といると昔に戻ったような感覚になるのでござるよ。しかしやはり拙者はドロロ。もうゼロロではないのでござる」
 春風がドロロの帽子の裾を揺らす。柔らかく暖かな風は花々を連れてきた。
「ゼロロ」
 ジララが呟いた。あの頃と違いガスマスクは外され、薄い口布へと変わっていた。だが、澄んだ青い目は変わらない。ジララをじっと見つめる綺麗な目。
「ジララ様」
 ドロロはあの頃のように呼んでみせた。ジララには今のドロロがかつてのゼロロのように見えた。懐かしい感覚が体を駆け巡った。
「……様などつけるな」
 ジララは自身の右手を見た。切り落とされ短くなった人差し指。その断面が痛々しく今のジララを語っているようだった。
「……僕にとってはいつまでもジララ様なんです」
 ドロロは手を伸ばすとその指を撫でた。愛おしむように優しく、少し悲しい目をして。ジララはその手を振り払うとドロロの口布をそっと撫でた。
「……今日だけは、ゼロロでいます」
 ジララの手が口布を下げる。露わになった唇が優しく微笑む。
「だから、今日だけはジララ様でいてください」
 ドロロの唇がジララのマスクへ触れた。ジララの手は了解を告げるようにドロロの頭を撫でた。
 エイプリルフールという地球の文化に則って二人は過去を懐かしんだ。本星にいた頃のように名を呼んだ。手に触れて、キスをした。今日だけの特別な日が終わるのが惜しいようなそんな気もして、だがもうあの頃には戻れないことも分かっている。だからこそ今を楽しむのだ。変わったことも変わらないことも丸ごと愛して。唇から伝わる体温は変わることなく二人を温め合う。今を逃さまいと触れた指はやっと訪れた春を掴んでいた。
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