ジラドロ

 ドロロは鳥の声で目を覚ます。春の近付いた爽やかな朝だ。自然のままに身を任せるこんな生活もいいものだと思っていたが常に何か満たされない。ドロロにはその理由が分かっていた。
 ドロロはジララを求めていた。必死に押さえつけてきた感情なのに、未だに忘れられない。ジララといるときのピリついた空気も、冷たい視線も全てを含めてジララを求めている。無駄な感情を持っていることをあの方は許してくれないだろう。それがたとえ自分に向けられたものだとしても。
 地球での暮らしはいいものだ。仲間にも恵まれて伸び伸びと生きられる、でもそれとはまた別のものがドロロを求める。
「俺は無駄な感情が嫌いだ」
 ジララは口癖のようにそう言っていた。胸に穴が空いたように満たされないのは自分自身の甘えなのだろうか。思考の読み取れない赤い瞳。冷淡な声が耳を貫く。
 ドロロは頭を冷やそうと外の風を浴びた。温い風は春の訪れを知らせる。暖かさに頭がぼうっとした。ジララは言っていた。気候に左右されては真のアサシンにはなれないと。春だからという言い訳は通用しない。地球に来てから体だけではなく頭も鈍ったような気がする。地球の春は暖かい。ポカポカとしていて頭の働きを鈍らせる。
「冷水でも浴びて来い」
 ジララの声を思い出す。ドロロは庭の水で手を洗った。確かに冷水は頭を冷やす。だが、そうではない。ドロロは常に正気だ。正気でジララを求めていたのだ。どんなに頭から振り払おうとしてもできなかった。ドロロの頭の中にはいつもジララがいた。行動するたび頭の中でジララが呼びかけるのだ。ジララならどうするか、それが指針にもなっていた。
 指先から水滴が落ちた。地面を濡らしても、やがて乾いていく。ドロロの心も乾ききっていた。潤いで満たされることのない心は春風に包まれても冷え切ったままだった。
16/47ページ
スキ