ジラドロ

 ドロロの休暇に合わせて宇宙人街に誘われたジララは堂々とサイド7を闊歩した。たまに浴びる脱走兵としての視線にも構わずドロロと並んで歩く。ドロロの行きつけの店には宇宙そばと書かれた看板があった。ジララはそばを食べたことはない。そばだけではなく地球の食べ物はほとんど口にしたことがなかった。
 店内に入るとドロロに注文を任せ、横長のテーブルに置かれたそばと対面する。茶色のスープに灰色の麺。食欲をそそられる見た目とは言えない。そこに衣をつけた海老が添えられていた。ドロロは割り箸を割り麺をすする。その食べ方も地球流なのだと言った。なんと行儀の悪い。ジララは眉根を寄せる。だが旨そうに食すドロロを見て恐る恐る麺を口に運んだ。
「変わった味だな」
 食べつけない味だが不味くはなかった。スープは香りが良く、海老はサクサクに揚げられていて食感も良かった。なにより、食事らしい食事だと感じた。ケロン星で食べていたものは加工食が多く腹を満たすためかあるいは栄養補助の目的で食することが多かった。こんなにも味わう目的で食べる食事はもしかしたら初めてかもしれなかった。ドロロはジララの知らない間に地球に適応していた。家では米と味噌汁、焼いた魚を食べている。兵舎の食堂で飲み込むように食べたものとは全く違う。これが美味しいというものか。軍隊では味覚を優先しては話にならない。だが脱走兵の今、ジララには食事に気をかける余裕があってもいいと思われた。
「美味しいものを食べると心が満たされるのでござる」
 ジララにはいまいちその意味が分からなかった。心が満たされるという感覚を知りたくまた一口そばをすすった。心を気にかけたことなどなかった。感情を捨てるよう努力してきた。だが今はドロロのいう感情を知りたくなっている。今自分の心は満たされているのか、それも分からない。空虚を感じることはあってもそれを満たしたいなどと思わなかった。それが暗殺兵の使命だと割り切ってきた。
「心がいっぱいになると幸せになれるのでござる」
 ドロロはそばを食べ終えスープまで全て飲み干していた。ジララには空になった器がどこか嬉しそうに見えた。ドロロは幸せを食べているように見えた。食べ物には幸せの素があるのだろう。ジララはまだ残ったそばをすする。胃袋が満たされるように幸せで満たされていく感覚をまだ知らない。ジララはドロロ同様スープまで飲み干す。満たされた胃。温まった体。これが幸せだというのか。食べることの喜びと幸せが結びつくのだと知った。食べ終えた器を見つめながら思う。心の空虚を埋めるのは穏やかな一時であると。食事を終えドロロと迎えた平和な昼下がりはジララにとって大切な時間になった。
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