ジラゼロ

 その時僕は言葉という救いを求めた。僕とジララ様の間に流れる長い沈黙に耐えられず、何か言葉を発しようと思うも頭が真っ白になり何も出てこない。ジララ様はただ僕をじっと見つめて、その間僕の心臓は激しく音を立てていた。せめて何か言ってくれたなら、僕はこんな居たたまれない気持ちにならずに済んだのに。ここに言葉があれば、どんなに楽だっただろう。ジララ様の感情の感じられない赤い目が僕を見続ける。僕は射竦められたかのように動くことができない。僕は必死に震える唇を動かすが、声は掠れていた。
「御無礼を……」
 数秒前の自分の言葉を取り消すように僕は言葉を発した。ジララ様がゆっくりと瞬きをして息を吐く。だがやはりそこに言葉はない。僕が口にした言葉がいかに失礼な言葉だったのかを思い知らされた。身勝手に抱いた恋心。相手の迷惑など考えずぽろりと溢した言葉。ジララ様はようやく僕から目を離すと背を向けた。手を伸ばせば届く距離にある黒い背中がとても遠くに感じられた。
「どんな言葉が欲しいか言ってみろ」
 ジララ様はそう言い捨てるように吐くと僕の返事を待っていた。あまりのことに僕は何も返せず言葉にならない言葉を漏らした。
「甘い言葉が欲しいか、それとも……」
 ジララ様が顔だけこちらを向いて僕を見た。呆れたような目だった。それとも、その言葉の続きにぞくりとして僕は唾を飲み込む。そして自分の甘さに呆れながら僕は首を振った。
「……そうか」
 ジララ様はそう言って顔を前に向けた。救いの言葉をかけてくれる優しさを持っているとは思っていない。だが突き放すこともしない。生殺しの優しさが何よりも僕を苦しめた。本当はとうに気付いていたのだろう。僕の挙動から読み取れる不自然さに驚きもしていないはずだ。だが気付かないふりをする、ずるい人。
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