ジラゼロ
風呂を終え消灯までの自由時間、僕は兵舎を出るとドアの前で空を見上げた。夜風に当たりたいと思うのは特に珍しいことではなかった。ただこの頃気が詰まって仕方がなかった。この兵舎では一人になれる時間はほぼなく、なかなか気が休まらない。少しでも自由を求めて僕は外に出た。だが外に居たのは僕だけではなかった。暗闇に溶けるようにマントを羽織ったジララ様が立っていた。そして僕を見ると口を開いた。
「家族が恋しいか」
夜風に乗った声は妙に優しく僕の耳に入り込んだ。ここではホームシックになる者は少なくないのだろう。
「いえ。……家族というより友人に、です」
友人に会えない寂しさはここにいるみんなが抱えてるのだろう。だがそれを決して顔に出さず心を殺して訓練に励む。それがアサシンなのだ。薄い雲が夜空を覆う。
「アサシンに向いてると言われた奴か」
僕は驚いてジララ様を見た。前にした何気ない会話だというのに。
「……覚えていてくださったんですね」
ここはとにかく息苦しくて気分転換も何もない。閉塞的な環境で頼れる人も居ない。だからそんな優しさが非常に沁みた。人の優しさに触れることなど何時ぶりだろう。僕はゆっくりと息を吐く。
「不躾を承知の上で伺いますが……ジララ様にも寂しいと思うことはあるのですか」
ジララ様は僕をまっすぐに見つめた。何を考えているか分からない目。しばらくして僕から目を逸らすと顔を上げて夜空を見つめた。
「心は捨てた」
そう言い切って再び僕を見た。……だったら、その優しい声色を僕に向けるのはなぜですか。言葉を飲み込んで、しかしジララ様に心を読まれているような気がして顔を逸らした。甘い。そんな声が聞こえた気がした。心を捨てなければ一流のアサシンになどなれない。だとしても僕は。
「消灯時間なので失礼します」
ジララ様を向いて敬礼をした。ジララ様は頷いてまた夜空を見つめた。僕は兵舎に戻りながらジララ様のことを思った。きっと夜空を見上げて物思いに耽る理由があるのだろう。家族や友人、かつて大事な人が居たに違いないのに全てを捨てて真のアサシンになった。僕は彼に憧れる。その反面アサシンになどなれるはずがないとも思った。自室に戻りベッドに潜る。すぐに消灯時間が訪れ、体は暗闇に包まれた。ジララ様はまだ夜空を見ているのだろうか。そして何を考えているのだろうか。他人に干渉するのも本来は良くないのだろうと思う。だが僕に話しかけた柔らかい声は決して心を捨てた人とは思えなかった。もし、ジララ様に心があったなら。少しでも僕を……好きだと思ってくださるなら。そう思って自分に呆れた。苦しむくらいなら心を捨てた方が楽なのだ。頭では分かっていてもできないのは僕が生き物だからなのだろうか。アサシンとはいえ所詮ただの人。つまりジララ様だって……。悶々と考え続けてはいつになっても眠れそうにない。無理矢理に考えを遮断して僕は眠りについた。夢の中でならどんなに心を持っても許される。偽りの感覚が生々しく熱を持つ。僕は目を覚まして最初に溜め息を吐いた。
「家族が恋しいか」
夜風に乗った声は妙に優しく僕の耳に入り込んだ。ここではホームシックになる者は少なくないのだろう。
「いえ。……家族というより友人に、です」
友人に会えない寂しさはここにいるみんなが抱えてるのだろう。だがそれを決して顔に出さず心を殺して訓練に励む。それがアサシンなのだ。薄い雲が夜空を覆う。
「アサシンに向いてると言われた奴か」
僕は驚いてジララ様を見た。前にした何気ない会話だというのに。
「……覚えていてくださったんですね」
ここはとにかく息苦しくて気分転換も何もない。閉塞的な環境で頼れる人も居ない。だからそんな優しさが非常に沁みた。人の優しさに触れることなど何時ぶりだろう。僕はゆっくりと息を吐く。
「不躾を承知の上で伺いますが……ジララ様にも寂しいと思うことはあるのですか」
ジララ様は僕をまっすぐに見つめた。何を考えているか分からない目。しばらくして僕から目を逸らすと顔を上げて夜空を見つめた。
「心は捨てた」
そう言い切って再び僕を見た。……だったら、その優しい声色を僕に向けるのはなぜですか。言葉を飲み込んで、しかしジララ様に心を読まれているような気がして顔を逸らした。甘い。そんな声が聞こえた気がした。心を捨てなければ一流のアサシンになどなれない。だとしても僕は。
「消灯時間なので失礼します」
ジララ様を向いて敬礼をした。ジララ様は頷いてまた夜空を見つめた。僕は兵舎に戻りながらジララ様のことを思った。きっと夜空を見上げて物思いに耽る理由があるのだろう。家族や友人、かつて大事な人が居たに違いないのに全てを捨てて真のアサシンになった。僕は彼に憧れる。その反面アサシンになどなれるはずがないとも思った。自室に戻りベッドに潜る。すぐに消灯時間が訪れ、体は暗闇に包まれた。ジララ様はまだ夜空を見ているのだろうか。そして何を考えているのだろうか。他人に干渉するのも本来は良くないのだろうと思う。だが僕に話しかけた柔らかい声は決して心を捨てた人とは思えなかった。もし、ジララ様に心があったなら。少しでも僕を……好きだと思ってくださるなら。そう思って自分に呆れた。苦しむくらいなら心を捨てた方が楽なのだ。頭では分かっていてもできないのは僕が生き物だからなのだろうか。アサシンとはいえ所詮ただの人。つまりジララ様だって……。悶々と考え続けてはいつになっても眠れそうにない。無理矢理に考えを遮断して僕は眠りについた。夢の中でならどんなに心を持っても許される。偽りの感覚が生々しく熱を持つ。僕は目を覚まして最初に溜め息を吐いた。
