ジラゼロ

 訓練後、皆が散り散りになる中ジララはゼロロを呼び止めた。無表情のはずの目はどこか優しくゼロロを見つめていた。それがどんな用であるか、ゼロロには察しがつく。ゼロロは背筋を伸ばしジララへ敬礼をした。
「夜、俺の部屋に来い」
 ゼロロは腕を下ろすと柔らかい声色で「了解しました」と告げた。端から見れば緊迫した空気のはずが、二人の間に流れる空気はどこか柔らかい。それはゼロロがジララに呼ばれることを期待していたからなのだろう。
 シャワーと夕食を教えてゼロロはジララの部屋を訪ねた。重厚な扉をノックし、名を名乗る。
「失礼致します」
 扉を開けながら言うと、ジララはゼロロを見た。革張りのソファに腰掛け、ワインを傾けるジララの姿。ゼロロを待っていたのかのようにソファを降りるとゼロロへ歩み寄った。そしてゼロロの体を抱いた。宙に浮く青い体。軽々と持ち上げられたかと思うとそのままベッドへ座らされた。
「あの」
 ゼロロは目を丸くしてジララを見たが、ジララはお構いなしにゼロロのガスマスクを外す。金属の手だというのに器用な手つきだった。露わになった唇にジララの人差し指が触れる。
「ジララ様?」
 ひんやりと冷たい指が唇を感触を確かめるようになぞる。ゼロロはくすぐったそうに肩を震わせた。ジララは自身の金属のマスクに手をかけた。ゼロロはじっとその様子を見つめる。彼の素顔を見たことはある。だが決まって部屋は薄暗く、よくは見えない。今もそうだった。ジララはゆっくりとマスクを外すとゼロロの唇へキスをした。愛おしむように、味わうように。ゼロロはぎゅっと目を閉じてただされるがままになっていた。ゼロロの唇を食むその唇は優しく、決して傷をつけまいと動く。
「はっ、んむっ……」
 ゼロロは苦しそうに声を漏らした。不慣れなキスにそっと目を開ける。ジララはそっと口を開く。
「息を止めるな」
 ジララはそう言うともう一度唇を塞いだ。ジララの指がゼロロの指を掴む。ゼロロはその指を受け入れて指を絡めた。何度も角度を変えてキスをする。ゼロロの頭の中には数々の疑問が浮かんでいた。何故このようなことをするのか、どうして自分なのか。だがそんなことを考える余地もないくらい、頭の中はジララでいっぱいにされた。
「ん……!」
 唇を割って侵入する舌に、思わずゼロロの手に力が入る。ジララのものとは思えないほど熱く、溶けてしまいそうなくらい心地よい。頭がぼうっとしてゼロロはジララを受け入れた。力の入った指先も熱くぴったりと触れ合うジララの手とくっついてしまいそうだった。そしていつしかゼロロもジララを求めていた。噛みつくように食む唇はどちらのものか分からないほどに溶け、赤い頬も熱を持った瞳も全てがジララに染まっていた。ジララはゼロロの顎をそっと撫でた。
「良い部下を持ったものだ」
 ジララは笑ったかのように目を細める。熱い息を吐くゼロロにその意味は分からない。それでもジララに求められることが嬉しかった。
「ふふ」
 ゼロロは柔らかく微笑むと底から湧き上がる妙な火照りを冷まそうとそっと息を吐いた。
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