ジラゼロ

擬人化

 静寂の中に古いジャズが流れている。閉店間際の喫茶店は彼ら以外に客は居らず、しんとした空気に包まれていた。
 ゼロロは休日にジララに誘われた。兵舎を出て街に行かないかというあまりにも珍しい誘いに何かの罠ではないのかと自分の耳を疑った。だがジララの誘いを断れるわけもなくゆっくりと頷いた。
 テーブルの上にはアイスコーヒーが二つ。グラスにはすっかり汗をかき長い間二人がここにいることを示していた。ジララはゼロロを呼び出しておきながら口を開かない。時折コーヒーを口にしては窓の外の歩行者を眺めているようだった。何かを言いたいのかゼロロには分からない。ゼロロもジララに従うように沈黙を守り続けた。
「俺を冷たい奴と思うか」
 沈黙を破ったのはジララだった。アイスコーヒー片手に言う低い声にゼロロは戸惑った。そして一旦喉を潤そうとグラスを掴む。ストローで吸う苦さが口の中に広がる。冷たい、そう思うのは手から伝わる温度のせいか。手にしたグラスの冷たさに僕は素直に頷くことができなかった。金属の手はいつだって冷たい。それがジララが冷たいということに繋がるわけではない。
「人の体温は三十六度である以上、冷たいとか温かいとかそんなものは存在しないのではないでしょうか」
 ゼロロは言葉を振り絞った。ジララはグラスを置くと自分の手を見つめながら言う。
「俺は人か?」
 その問いにゼロロはまたしても沈黙に陥った。彼の腕は人間のものとは言えない。
「ゼロロは温かい」
 ジララはゼロロの目を見つめた。青く澄んでいながら、どこまでも暗さのある瞳。ゼロロが俯くと青い髪が揺れた。
「……僕は温かくありません」
 ジララはゼロロの言葉に少し間を置いて口を開いた。
「俺には温かいと感じる」
 ゼロロは首を振った。アサシンである自分が温かい人間であるなど言語道断。ジララの発言はゼロロを傷つけた。
「どんなに気丈に振る舞おうが根本は変わらん。お前は温かい……アサシンにはあるまじき温かさだ」
 ジララはグラスを手にした。ゼロロは何も言えなかった。自分の弱さが自分を一人前のアサシンにしてくれないのだと、自分でもよく理解していたつもりだった。
「アサシンなど、向いていない」
「それでも、僕は決めたんです。友達にアサシンになれるって言われて」
 ジララは小さな溜め息を吐いた。その溜め息が覚悟の溜め息だったのだと、ゼロロは後に気付いた。
 空になったグラスとコインを置いて二人は店を出た。夜風が冷たく肌を撫でた。
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