ジラゼロ

 訓練所から家に帰る途中、いつもの公園に行った。もちろん一緒に遊ぶトモダチなんていない。ボクはいつだって一人ぼっちだった。がらんとした公園でブランコに腰掛けてゆらゆらと漕いだ。目線を下げると膝に貼った絆創膏が目に入る。訓練中に転んでケガをしたのだ。周りからは笑い声が聞こえてきて耳を塞ぎたくなった。どうしてボクはいつもドジなんだろう。じわりと目に涙が溜まった。だがふと目の前に人影を感じて顔を上げた。知らない人。黒いマントを身に着けたおじさんがブランコの前に立っていた。そしておじさんは黙って手を差し出してきた。手のひらにはアメ玉があった。
「えっと」
 ママから知らない人とは話すなと言われている。おじさんは赤い目でまっすぐにボクを見つめた。そしてボクの手にアメを乗せると口を開いた。
「これは不思議な飴だ。食べてみなさい」
 そう言われてボクは恐る恐る食べることにした。包装を開けてアメを口に入れるとそれはいたって普通のアメだった。確かに、甘さが寂しさを紛らわせてくれた気はしたが何も起こらない。おじさんはボクがアメを舐めるのを見届けて姿を消した。まるでアサシンみたいにふっと消えてしまった。
 けれど、その夜ボクは不思議な夢を見た。なんとトモダチができる夢を見たのだ。その子の顔にはモヤがかかっていてよく見えなかったが、その子もおじさんと同じ赤い目をしていた。
 次の日、昨日と同じ公園に行くとおじさんはいた。ボクは思わず昨晩見た夢の話をした。
「昨日いい夢を見たんです! もしかしておじさんがくれたアメのおかげ?」
 おじさんは何も言わなかった。
「今日はアメはないんですか?」
 おじさんは頷く。
「特別な飴だから、昨日のが最後だ」
 そっか、とボクはしょんぼりと肩を落とした。おじさんはボクに尋ねる。
「どんな夢を見た?」
「トモダチができる夢です。ボク、トモダチがいないから……。その子の顔はよく見えなかったけど目が赤くて……あ、おじさんに似てたかも」
「……そうか」
 おじさんは夢の話を聞くとボクから離れようと脚を動かす。ボクは慌てて口を開いた。
「あの! ボク、いつもここにいるので、明日もきてください!」
 そう言うとおじさんはボクに近づいてきて頭を撫でた。金属でできた手だった。
「また会えるといいな」
 それきりおじさんが公園に来ることはなかった。もっとも、ボクがこの街を離れたのが原因かもしれない。
 あのおじさんは誰だったのだろう、そしてあのあはなんだったのだろう。全てが謎に包まれた中でボクはぼんやりとおじさんの姿を思い浮かべるのだった。
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