ジラゼロ
好き、嫌い、好き。相反する気持ちがまるで花占いのように頭の中を巡る。
喉を通るアルコールが焼けるように熱いのに、いつしか酔えない体になってしまった。毒の耐性がつくのも考えものだなと思う。
せっかくの休暇をこのように過ごすのは如何なものかと思いながらも、アルコールに頼る以外に方法は見つからなかった。兵舎での息苦しさから解放された街はキラキラと眩しく見えた。吸い寄せられるように入ったバーで強い酒を注文した。透明のグラスに琥珀色の液体が注がれ目の前へ出されると僕はそれを一気に煽った。アルコールの力に頼らなければ正気ではいられないほど、僕は思い詰めていた。
長いカウンター越しにマスターが念入りにグラスを磨いている。僕はその様子をぼんやりと眺めながら空になったグラスを思う。生憎酒の類には詳しくない。注文をしようにも上手い言葉が出ずにいた。するとマスターが僕を見かねたように声をかけた。
「ご注文ですかい」
「あ、ええと……」
僕がそう言い淀んでいるとマスターは背中側にある棚から酒瓶を取り出した。
「ワインは好きですかな」
マスターは白ワインを手に僕に問いかけた。僕が頷くと棚から別の瓶も取り出した。「今作りますからね」と言い、その二つの液体をグラスに混ぜた。二つ目の液体は紫色をしていた。思わずその紫色に僕はどきりとした。まさに今僕が悩んでいたジララ様の体色を思わせたのだ。しばらくするとマスターがマドラーで軽くカクテルを混ぜ、僕の前にグラスを供した。
「お待たせしました」
僕はグラスを受け取ると一口啜る。白ワインのフルーティーさが口の中に広がった。
「ジュテームっていうカクテルです。ペコポンの言葉で、愛してるという意味なんですよ」
マスターが愛想良くそう言った。僕は顔を上げてマスターを見た。
「お兄さん、悩んでるでしょ。私には分かります」
まるで心を読んだかのようにマスターは微笑みを浮かべた。僕は何も言えず黙ってテーブルに目をやった。まさに僕の悩みはジララ様のことだった。グラスを持ち上げもう一口カクテルを啜った。頭が冴えて全く酔えそうにはなかった。
「……好きになってはいけない人を、好きになってしまったんです」
でも、と僕は続ける。
「僕はその人が嫌いです。憎くてたまらないんです」
僕は自分の気持ちがまるで分からなかった。マスターはうんうんと僕の言葉に頷いた。
「好きなのに憎くてたまらない、なるほど、分かりますよ。そういうお客さん、よくいます」
マスターは目を閉じて口を開く。
「中にはね、殺したいほど好きだと言う人もいるんですよ。どうして好きな人を殺したくなりますかね」
僕はその気持ちが少し分かる気がした。
「だからね、二つの感情が反対でもそれはおかしいことじゃないんです。むしろね、人の感情なんて複雑なものでしょう。それは自然なことだと思いますよ」
マスターはそう言い終えるとカウンターの奥へと歩いていった。僕はグラスを両手で握りしめた。抑えきれない感情をぶつけるようにカクテルを煽る。もはや味わってなどいられず、カクテルは舌をすり抜け喉を通る。僕はお代をカウンターに置いて店を出た。外は夜風が涼しく気持ちがいい。夜の街はまだまだ賑やかだったが僕は日付が変わる前に兵舎に帰ることにした。これ以上飲んでも何も変わらないのだと分かったからだ。それよりも帰って頭を冷やす必要がある。自分の複雑な感情を整理して彼への思いを固めなければならない。僕は足を踏みしめ兵舎へと歩き出した。
喉を通るアルコールが焼けるように熱いのに、いつしか酔えない体になってしまった。毒の耐性がつくのも考えものだなと思う。
せっかくの休暇をこのように過ごすのは如何なものかと思いながらも、アルコールに頼る以外に方法は見つからなかった。兵舎での息苦しさから解放された街はキラキラと眩しく見えた。吸い寄せられるように入ったバーで強い酒を注文した。透明のグラスに琥珀色の液体が注がれ目の前へ出されると僕はそれを一気に煽った。アルコールの力に頼らなければ正気ではいられないほど、僕は思い詰めていた。
長いカウンター越しにマスターが念入りにグラスを磨いている。僕はその様子をぼんやりと眺めながら空になったグラスを思う。生憎酒の類には詳しくない。注文をしようにも上手い言葉が出ずにいた。するとマスターが僕を見かねたように声をかけた。
「ご注文ですかい」
「あ、ええと……」
僕がそう言い淀んでいるとマスターは背中側にある棚から酒瓶を取り出した。
「ワインは好きですかな」
マスターは白ワインを手に僕に問いかけた。僕が頷くと棚から別の瓶も取り出した。「今作りますからね」と言い、その二つの液体をグラスに混ぜた。二つ目の液体は紫色をしていた。思わずその紫色に僕はどきりとした。まさに今僕が悩んでいたジララ様の体色を思わせたのだ。しばらくするとマスターがマドラーで軽くカクテルを混ぜ、僕の前にグラスを供した。
「お待たせしました」
僕はグラスを受け取ると一口啜る。白ワインのフルーティーさが口の中に広がった。
「ジュテームっていうカクテルです。ペコポンの言葉で、愛してるという意味なんですよ」
マスターが愛想良くそう言った。僕は顔を上げてマスターを見た。
「お兄さん、悩んでるでしょ。私には分かります」
まるで心を読んだかのようにマスターは微笑みを浮かべた。僕は何も言えず黙ってテーブルに目をやった。まさに僕の悩みはジララ様のことだった。グラスを持ち上げもう一口カクテルを啜った。頭が冴えて全く酔えそうにはなかった。
「……好きになってはいけない人を、好きになってしまったんです」
でも、と僕は続ける。
「僕はその人が嫌いです。憎くてたまらないんです」
僕は自分の気持ちがまるで分からなかった。マスターはうんうんと僕の言葉に頷いた。
「好きなのに憎くてたまらない、なるほど、分かりますよ。そういうお客さん、よくいます」
マスターは目を閉じて口を開く。
「中にはね、殺したいほど好きだと言う人もいるんですよ。どうして好きな人を殺したくなりますかね」
僕はその気持ちが少し分かる気がした。
「だからね、二つの感情が反対でもそれはおかしいことじゃないんです。むしろね、人の感情なんて複雑なものでしょう。それは自然なことだと思いますよ」
マスターはそう言い終えるとカウンターの奥へと歩いていった。僕はグラスを両手で握りしめた。抑えきれない感情をぶつけるようにカクテルを煽る。もはや味わってなどいられず、カクテルは舌をすり抜け喉を通る。僕はお代をカウンターに置いて店を出た。外は夜風が涼しく気持ちがいい。夜の街はまだまだ賑やかだったが僕は日付が変わる前に兵舎に帰ることにした。これ以上飲んでも何も変わらないのだと分かったからだ。それよりも帰って頭を冷やす必要がある。自分の複雑な感情を整理して彼への思いを固めなければならない。僕は足を踏みしめ兵舎へと歩き出した。
