ジラゼロ

 ジララの羽織った黒いマントは裾がほつれたり破けたりとかなり傷んでいた。常に身に纏うマントだ、アサシンの過酷な訓練の中で破けることなど日常茶飯事だった。だがゼロロはそんなボロボロになったマントが気になっていた。親から物を大事にするよう教わったゼロロは持ち物は自分で直して使ってきたのだった。ボタンが取れれば縫い付ける、穴が開けば穴を塞いだ。だからジララのマントも綺麗に縫いたいと思ってしまったのだった。
「ご迷惑でなければですが」
 ゼロロはジララに向かって口を開いた。
「ジララ様のマントを縫い直したいと思いまして」
 ジララは自分のマントを見た。当たり前に着ているものだからか、そこまで傷んでいたことにも気がついていなかった。確かに裾が破れたり見栄えはよくなかった。ジララは少し考えたように間を置くとゆっくりと頷いた。そして首元を緩めマントを脱いだ。金属の腕がゼロロにマントを手渡した。
「頼む」
 ゼロロはマントを両手で受け取るとにこりと笑ってはい、と頷いた。
 ゼロロは自室で自前の裁縫箱を開けた。自分の帽子などもよく直していたから、裁縫はお手の物だった。女の子みたいだとからかわれたのは過去の話。いつしか胸を張れるようになった特技の一つだった。針に糸を通して玉結びをする。マントの傷み具合を見てジララを感じた。傷んだマントすら勲章のようで格好良いと思う。だが今は感心している場合ではない。マントに針を刺し少しずつ縫い進めていく。神聖なものを扱うかのようにゼロロはマントを丁寧に縫った。ジララは常にマントを羽織っていた。だからこのマントはジララ自身のようなものだったのだ。ゼロロはたまにマントの下から覗く金属の指が好きだ。鋭利な指先から放たれる蜘蛛の糸は恐ろしいが、鈍く光る重い金属の色がゼロロを惹きつけた。何より、ジララがゼロロにマントを預けてくれたことがゼロロはとても嬉しかった。余程信頼されているのだろう。思わず溢れてしまった笑みでジララにもそのことが伝わっていた。
 しばらく縫い続け、ゼロロはマントを持ち上げる。あれだけ傷んでいた裾はすっかり綺麗になった。直せばまだまだ使えるのだと教育してくれた親に感謝した。ゼロロはマントを持ってジララの部屋を訪ねた。黒い思い扉をノックし、ゆっくりと引く。
「失礼致します」
 ジララは奥の椅子に腰掛けていた。ゼロロがマントを着ていないジララを見るのは珍しいことだった。
「マントを縫い終えたので持ってきました」
 ゼロロはジララへ向かって歩みを進めた。両手に持ったマントをジララに差し出す。ジララは椅子から降りてマントを受け取った。そして縫われた裾を確認するように見た。ゼロロはどきりとしてジララの様子を黙って見つめていた。ジララは裾を指でゆっくりと撫でた。そしてその手はゼロロの頭の上へと移動した。
「上出来だ」
 鋭い指からは想像もできない優しい手つきでジララはゼロロの頭を撫でた。ゼロロは嬉しさに目を細め柔らかく笑った。
「ありがとうございます」
 ジララはマントを羽織る。長く着て体に馴染んだマントだ。ボロボロになっても着続けたいと思っていたマントをゼロロの手によって直してもらうなど思いもしていなかった。
「良い特技を持っているな」
 ジララの言葉にゼロロは再び笑う。ジララの役に立てたことが嬉しかった。
「また頼むぞ」
 マントの中から伸びた手がゼロロの頭を撫でた。それは冷たいはずなのに温かくて、鋭いはずなのに優しい手だった。


相互さんのネタです
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