ジラゼロ

 肌を重ねてる間だけは愛されているような気になれた。心まで愛してくれることはない、そう割り切った体だけの関係。見透かしているはずの僕の心を見ないふりをしてジララ様は僕の体を抱き寄せる。金属の腕の冷たさは骨にまで響いた。
 ジララ様の部屋に呼ばれるたびに嬉しさとともに一抹の寂しさが宿った。これから抱かれるというのに不満など言うものではないが、所詮はジララ様にとって僕は都合のいい存在なのだろう。呼べばいつでも駆けつける、従順な部下だった。低い声に名を呼ばれれば頭が甘くとろけ正常な思考ではなくなる。だが僕はそれでよかった。何も考えられないほうが自分を傷つけないで済む。目を閉じてしまえば後はもうジララ様に身を任せるだけだった。
 気だるい体で広いベッドの上に座っていると、ジララ様はワインを持ってきた。僕はグラスを受け取ったが今はそんな気分ではなかった。ジララ様は一気にワインを煽ると空になったグラスを見つめていた。
「酔えない酒は要らんというのか」
 毒の耐性訓練で僕の体はアルコールに強くなった。たった一杯のワインでは酔うはずはなかった。
「そういう訳では」
 僕はグラスに口をつける。ワインを喉に流し込むと鼻に抜けるアルコールの匂いを感じた。
 この思いが報われることはない。そう知りながら抱かれるのは悪いことなのだろうか。答えは自分の胸に聞いた。僕は自分を軽蔑した。そして共にジララ様を憎んだ。彼がどんな思いで僕を抱いているのか、それさえ分かればまだ心を保っていられる。僕にはジララ様の考えは読めない。赤い瞳は心の全てを隠している。
「帰ります」
 僕はベッドから立ち上がる。ジララ様は僕の手を引いた。それはまだ帰るなと言わんばかりの力だった。僕はその手を掴み返す。そして少し屈むとその指先にキスを落とした。ジララ様は何も言わなかった。ただ僕が部屋を出るのを黙って見つめていた。
 廊下は暗く静かだった。静寂の中で自分の心の声だけが聞こえてきた。相反する二つの感情に押し潰されそうになる。愛と憎しみ。どちらをとっても僕は幸せになれないと、それだけは確信していた。
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