ジラゼロ

 知っていながらも知らないふりをするのは我ながらずるいことだと思っている。最もずるく、嫌な手口だ。だがあの時のゼロロの赤く染まった頬に動揺した瞳。あれは紛れもなく……。
「ジララ様?」
 ゼロロに名前を呼ばれて振り返ればいつものゼロロがいた。あの日だけ、ゼロロの様子がおかしかった。だが既にゼロロはいつも通りに戻っていた。それならばいいのだが。
 ゼロロは俺に好意を寄せている。誰だって気がつく。本人は知られていないつもりかもしれないが、あまりにも分かりやすい。俺は分かっていながらその気持ちを無下にした。ゼロロだけ特別扱いはできない。何より組織が大事だ。少しの綻びがやがて大きな亀裂を生む。当然ながら嬉しいなどとは微塵も思わなかった。ただゼロロの感情に気が付いて受け入れながら否定するだけだった。
「あの……」
 ゼロロは小さな声で言う。まっすぐに見つめる視線が刺さる。
「僕は……ジララ様のお気持ちに寄り添いたいと思っています」
 ゼロロは下を向いた。何か言いたげな様子から次に発したい言葉など容易に見当がついた。
「俺の気持ちを理解するより、まず自分の感情を捨てろ」
 俺の言葉にゼロロは首を振る。いくら感情を捨てるよう教育をしてもゼロロは一向に聞かなかった。
「僕は、ずっと感情を抑圧し続けて意識から遠ざけたつもりでした。ですが、それでも、抑えきれなくて漏れ出たんです」
 あなたへの思いが……。ゼロロはあの時のように頬を染めた。俺をじっと見る瞳が痛々しい。
「それで俺の感情を見出したつもりか」
「そんな! 僕はそんなつもりじゃ」
 ゼロロは頭を振った。語尾が震えるのは今にも泣きそうになっているからだろう。冷たく言い放つのはゼロロのためだった。現に俺の頭の中は既にゼロロが支配していた。あの顔を見た時から……。なぜ、俺はゼロロに感情を乱されている?
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