ジラゼロ

 音を立てずに枯れ葉の上を歩けるのはアサシンなら当然だった。暗い夜の長時間の移動でその暗さに目も慣れた。
 兵舎を離れて数日だというのにジララ様の記憶が恐ろしく昔のように感じられた。黒い体に金属製の鋭利な指。三つの赤い目が不気味に光る。僕は自分の手のひらを見た。数日前、ジララ様の手に触れた。いつ触れてもジララ様の手はひどく冷たい。感触を確かめるような軽いキスをして、僕は任務のために兵舎を出た。あの日の頭に響く低い声に僕は囚われたようにぐるぐると考え続けた。ジララ様がキスをする前に僕の頬を撫でる癖。金属のマスクを外した、薄暗いなかでかすかに見える素顔。マントの衣擦れの音。僕の中に凝縮されたジララ様との記憶が溢れ出していた。一体僕は何を考えているのだろう。会えないのはたったの数日だ。だというのにどうしようもなくジララ様に支配されている。
 と、背後に気配を感じて咄嗟にワイヤーを構えた。だがそれはウサギだった。ウサギは僕を見ると怯えたようにすくみ、慌てて走って逃げた。僕は構えを解くと再び歩き出した。僕にはウサギの垂れた耳がジララ様の軍帽を思わせた。ところどころ破けたボロボロの軍帽が恋しくてたまらない。
 僕はマスク越しに唇に触れる。ジララ様がそうするように指で唇を撫でた。あの冷たさが懐かしく、今すぐにも欲しくなった。しみじみと思い出すと胸に甘さが迫り上がってきた。僕は自分の胸をさする。そして手を強く握った。早く任務を終わらせてジララ様に会いに行くのだ。
 地面から枯れ葉はなくなっていた。僕はジララ様を思い浮かべながら湿った土の上を歩いた。
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