ジラゼロ

 ジララ様が僕の手に触れると蕩けさせるような甘さが僕を包み込む。ジララ様はもう片方の手を僕の頬に置いた。僕はその手を握る。
「ゼロロ」
 ジララ様の声が耳から入って体中に響き渡る。甘い毒に侵されるように僕は虜になっていく。ジララ様の蜘蛛の巣に捕われ、身動きが取れなくなる。ジララ様は僕を抱きとめると傷つけないように優しく頬を撫でる。今更戻れない。戻る気もない。僕たちは夢の世界を見る。口づけは砂糖のように甘く、毒のように惹かれる。盲目的に人を愛するということがこれほどまでに心を乱されるのだと知る。
 僕は強くジララ様にしがみつく。離れないでほしい。僕だけを見てほしい。あなたが求めるのなら何だってしたい。ジララ様は僕の頭に手を置いた。
「そう急くな。時間はたっぷりとある」
 そう言うとその手を僕の背中に回して固く抱きしめた。肌越しに体温が伝わってきた。手はあれほどまでに冷たいのに体は嘘のように温かかった。僕はジララ様の肩に顔を埋めるとジララ様は僕の頭を撫でた。
「僕たちの前世はきっと恋人たちだったんでしょうね」
「どうかな。前世も命を狙う暗殺者だったかもしれんぞ」
 ジララ様は僕の胸に手を置いた。
「未来で結ばれたのならハッピーエンドですよ」
 僕は胸に置かれた手を握った。そしてその手にキスをする。冷たさが唇に沁みた。幸せの定義など人によるものだ。だが二人が共に愛し合っている、それが幸せでなくて何だと言うのか。どんなに足元が脆くても一寸先は闇でも今が幸せならばそれでいい。そう考えるのは愚かなのだろうか。
「ハッピーエンド、か」
 ジララ様は僕の言葉を繰り返した。僕は頷く。甘い毒に侵されながら、もがき苦しみながら目の前の幸せに目を向ける。幸せはそこにあるのだ。僕は愛しい人の手にもう一度キスをする。こんな時間を惜しいと思う人がいるだろうか。ジララ様は僕の手を振りほどくと唇に直接キスをした。毒は甘さが増して僕を責める。体ごと毒が回ってしまえばいい。僕は全てをジララ様に委ねる。心も体も全てを捧げたいと思う。僕は間違っているのだろうか。赤い目がじっと僕を見る。何を考えているのか分からないその目は僕にとっては愛おしいものだった。
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