ジラゼロ

 けたたましいベルの音で目を覚まし、味気のない食事を体内に取り込む。当たり前の生活だった。食事を摂っていても僕はジララ様のことを考えていた。今朝はおかしな夢を見た。気味の悪い、思い出すのも憚られるような妙な夢だった。
 僕はピカピカに磨かれたタイルの床の上に立っていた。そこはレストランのようでテーブルの反対側にはジララ様が座っていた。僕は促されるままに席に着いた。ジララ様がウェイトレスに何かを告げると彼女は銀色の蓋をして料理を持ってきた。僕の目の前に置かれた蓋を開くと白い皿の上に大きな蜘蛛が乗っていた。足の太い毛の生えた蜘蛛は生々しくとても食べ物とは思えなかった。ジララ様はじっと僕を見る。僕は手元のナイフとフォークを手にして蜘蛛の足を切った。そのまま口に運ぶと蜘蛛を食べた。
 朝食のアルミのプレートには野菜のペーストと合成肉が乗っていた。蜘蛛よりはずっといいものの美味しいものではない。味わうというよりも飲み込むように食べていく。何故あのような夢を見たのだろうか。夢の中までもジララ様が僕を支配しているのだろうか。しかし僕は蜘蛛を食べた。その意味を自分で考えた。僕は無意識的に蜘蛛を体内に取り込もうと思っているのだろうか。それはつまりジララ様を? 僕はスプーンを止める。口の中の食べ物が上手く飲み込めない。
「ゼロロ」
 突然背後から名前を呼ばれて反射的に飲み込んだ。僕は背筋を伸ばして後ろを向く。
「食事が済んだらA室の道具を準備してくれ」
「了解です」
 ジララ様はそれだけ告げるとその場を去った。僕の見たあの蜘蛛がジララ様の暗示ならば、それはつまりどういうことになるのだろう。自分の潜在的な感情がジララ様を求めているとでも言うのだろうか。僕は食事を平らげると食堂を後にした。A室に向かい訓練のための準備をしなければならない。道具の運び出しを頼まれたからにはきっちりとこなしたかった。
 A室はがらんとしていて倉庫のように使われていた。僕は積まれた段ボールを持ち上げる。と、その手に小さな宇宙蜘蛛が這った。僕はその蜘蛛を払い除けられなかった。一旦荷物を置いて手の蜘蛛を見つめる。
「どうしたんだい」
 僕は蜘蛛に話しかけた。蜘蛛は動かない。僕は窓まで歩いていくと鍵を開けて開け放つ。窓から腕を伸ばして蜘蛛を外へ出した。蜘蛛は僕の手を移動しながら窓の外へ歩いていった。その様子を見届けると窓を閉めた。僕は再び荷物を持ち上げた。


※野暮ですが補足すると蜘蛛にジララ様を投影して無下にできないという話です
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