しばらく経ってから。



『知ってるかクロサーさん』
「んだよ急に」
『亡くしたもんには二度と会えねーって、知ってるか』
「はあ？」
『明日も会える。だから今日話さなくてもいい。大事な人と喧嘩した。明日謝ろう。夕方一緒にお祭りに行く。明日一緒にドライブする。それまでは話さなくてもいいや』
「おいテメェ、」
『ねえ、黒澤和光さんよ』



光がない。酷く暗い目で彼を見る。教室内で話している為知り合いである十希夫や神戸などが割と大きな声で話す名前を凝視する。



『明日が来なかったら、どうする？』
「……」
『お節介？承知だ。だけど9.5割は私の私怨だからね。腹たったし。ねえ。どうする？人なんていつ死ぬか解らない。大事な人は、いついかなる時も死の危険に見舞われてる。車は往来してるし馬鹿な奴等は当然と武器を使う。使わなくとも喧嘩に巻き込まれりゃ最悪死ぬ』
「何が言いてえんだ」
『は、解ってんだろクソ兄貴』
「、」
『弟泣かす前にちゃんと話し合えや。お前等はまだ生きてる、生きてるんだから謝れるし話せるんだよ。死んでからじゃなんも伝えれねーんだからな』



泣いた？誰が。友哉が？あの友哉が、泣いた？何故。混乱するまま問えば鼻で笑われた。


『本当ならとっきーと花以外の鈴蘭なんぞ関わりたくもねーがよ』


初めて出来た私の“ ”の涙は堪えた、と悲痛に歪んだ。そのまま去った名前と、呆然と立ち尽くす黒澤和光。十希夫が背中をバシンと叩いた。








「……なぁ、友哉」


何年かぶりに聞いた自分の名を呼ぶ声。なに、と素っ気なく返すと煙草を吹かしてこちらも見ずにボソりと呟いた。



「……明日の飯、卵焼き入れてくれ」



両親共に働いていて、中学に上がった兄に弁当を作るのは友哉の役目だった。関わらなくなってからは習慣で作っていた弁当は持っていくことはなく、いつの間にか無くなっていた。どんな心境の変化だとか、なんで今更だとか、色んなことを思い浮かんで


「野菜入れるけど、残すなよ」
「……善処する」


その後２人で無言でテレビを見ていた。時折「お前のダチってよ、」と歯切れの悪い言葉が聞こえた。全て察した。


「あぁ、俺の悪友だろ。あんなゴリラだけどいい奴なんだぜ」


無性に泣きたくなった