第二回全面戦争篇
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「何を言ってるのか解ってるのか?」
「お、俺ァもう無理だ。何度言われようと、意思は変わらねえ」
威風堂々と戦う女を見た。自分が汚い真似をしている事は解っていたけれど、別に何がしたい訳でもないのでやっているだけの事を見透かすような目であった。地獄みてえな痛みの中、入院中に見舞いに来たあの女の笑顔を忘れられずにいる。
悪いけどお前ン所は潰したよ。にしても勿体ない、あんだけ酷いことしておいてなんだが私はお前の事は嫌いじゃないよ。
敵でありながらそんな事を言って去っていく女を見たら、自分が今までどれほど愚かだったか思い知らされるようであった。
罪滅ぼしなんて出来ない、やってきた事は変わらない。でもこれからは二度と汚い真似はしたくなかった。だから、抜けると言ったのに。
数人から襲い来る痛みを耐え抜き、苛立ち混じりに脱退を許され家に帰る。部屋で静かな物音がする。泣いた妹を見てどうしたのかと問えば、今まで自分がして来た罪が両肩にずしりとのしかかった心地がした。
「戻ってくれたか、お前は幹部だからな。居てもらわなきゃ困る」
いつの間にか歩いていたのはあの女に負けた河原であった。声がかかるまで勝手に動くなと言われているのに戸亜留市まで足を運んでしまうとはとうとう追い詰められているらしい。すぐ街に戻らねばと思うけれど足はとても重くて、重くて。
土手に降りて腰を下ろす。まだ事は起きてない、このままだとあの女や戸亜留市の勢力はめちゃくちゃになるだろう。だが自分に何が出来るのか、自分はもう従うしか道はない。あのステキな男達や眩しい女がやられていく姿を、自分は見届けるしかないのだ。
『お、懐かしい顔』
幻聴かと思った。恐る恐る振り向くと、気だるげな顔で煙草をふかして見下ろすあの女があった。合わす顔なぞ無いってのに女から視線を外すことは出来なかった、いや外すことを許されていない感じがした。
『隣良いかい』
「……言ってねえのに、座らんでくれますか」
『お前がダメと言ったところで座るからねえ』
カカ、と笑って女は携帯灰皿に煙草を押し付けた。持ち歩いてんのかよと口に出してしまうとポイ捨てすると寝転がれねえだろうと返された。そんな理由かよ。
『んで、お前どうしたの?』
「……なにが」
『なにが、じゃないよ。そんな疲れきった顔してよ。なに、まだ扱き使われてるわけ?』
「関係無いでしょうが」
『ホントに敬語の似合わねえ男だなお前。外せば?』
「……」
『てか、お前程の男がまだあの小物の下に居るの?そんな怪我まで負ってさ。勿体ないねえ、お前は根性あるし気概もいい。お前ならもっと良い所あるだろうよ』
「ッなにも知らねえくせに知った口叩くんじゃねえ!!!」
抜けられるものなら抜けている。ギチリと歯を軋ませる。言ったところでどうなる、意味もない事をするな。思わず怒鳴っちまってしまったと思ったけれど、女は凪いだ顔で怒声を受け流した。
『抜けたいとは思ってるのか』
「、関係ないっつってんだろ」
『抜けられない理由があるのか。その怪我、もしかしてリンチか』
「~~~ッ、」
『あのな、お前そのままじゃあ駄目だよ。テメーを不幸にして行くだけだ、お前とは一度殺りあった仲だもん、リンチ如きで抜けるのを諦めてる訳じゃねーんだろ?』
「ッ、~、……。ぃ、」
『ん?』
「い、妹、……」
『うん』
「妹に、か、監視がついてる……ぬ、抜けたら、妹がどうなるか、解らねえ」
『うん』
「もう、一度殴られて、襲われかけてる。お、俺みてえなクソッタレとは違う、真面目な女だってのに、お、俺のせいで」
話す気なんざ無かったのに、何故かボロボロと言葉が零れ落ちていく。真面目な妹とは仲が良いわけでもない、自分のような人間と関わらない方がいいと離れていた傾向すらあった。でも、でも。
“「お、おにいちゃん」”
頬を腫らした妹に何も思わないほど非情になれなかった。誰にやられたと聞けばふるふると震えながら出したのが見覚えのあるマークで、戻らざるを得なくなっちまった。妹や家には監視がついて、下手な事をしたら今度こそどうにかなっちまうだろう。
女はそんな話を聞いて、キョトンと目を丸めて、ダハハと笑い始めた。何がおかしいと目を尖らせるとお前馬鹿だね!と膝を叩く。女は立ち上がり手を差し伸べてきた。
『助けてくれって言ってみ!私、案外お前を気に入ってんだぜ!』
「はぁ!?」
『簡単だろ、私の手を取れ。な、言えよ』
「ば、馬鹿じゃねえのか!?俺はアンタの敵なんだぞ!」
『は?敵だろうがなんだろうが関係ないだろ。“私が”気に入った、それだけで許されるんだよ』
「あ、アンタが良くても周りが許さねえ筈だ!」
『はは、馬鹿。私が誰だか知ってるだろう!』
私はこの街で一番弱いが一番デカい勢力の頭で、一番自由な女なんだぜ!
そんな馬鹿みたいな事を言って女は差し出した手を引っ込めず、ずっと目を見詰めてきた。手を取るなんて事は出来ない、そんな事しちゃいけねーってのに。
「た、」
『うん』
「……たすけて、くれるのか」
『おう!』
男はみっともなく泣いちまった。泣いて、泣いて、“妹を”助けてくれと吐いて、女の手を取ったのだった。