阿賀島くん外伝!

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あれから一年と少し、もうすぐ中学生になる頃。阿賀島は名前とよくつるんで遊んでいた。この頃にはもう幼馴染連中の事をめちゃくちゃ嫌っていた。だって遊ぼうとしたら横から入ってくるし、奴等がヤンチャするとす~ぐ名前にも話が来るので。


『ね、タケちゃん。加地屋だよね?』
「そだよ。一緒」
『やった~、タケちゃん加地屋入ったからってあんまり喧嘩しちゃダメよ、主に好誠兄ちゃんとか』
「好誠くん?しないちや。あの人可愛がってくれるも」


名前の周りの人間と自然と知り合いになり、色んな勢力の事も知った。十三が武装戦線とかいうチームと関わって、乗ってる単車を見てめちゃくちゃ憧れて将来買いてぇな~とも思っている。

名前が懐いていた武装戦線の頭だった男がこの間死んだ。阿賀島も少し付き合いがあった男で、彼が死ぬまではよく二人で武装に顔を出していた。名前は酷く落ち込んで居て、幼馴染連中を遠ざけたけど、色んな人に慰められ、阿賀島とオールでお泊まり会して泣いて、なんとか立ち上がった。

穏やかな日だった。あの男の後釜に、クソ野郎が着いたのは。二代目に顔を出している時に、死んだ男……菅田が幼馴染なんだと紹介してくれた男。奴は名前は可愛がって居たけれど、果てしない野望を抱えたような目をしていて阿賀島は嫌いだったし、クソ野郎も阿賀島を嫌っていたように見える。


『十三兄ちゃんとか鮫島の兄ちゃん達、三代目クソすぎて抜けたわ』
「だろ~ね」
『……残党狩りみたいな事もしてるみたい。兄ちゃん達、大丈夫だといいけど』
「言うて十三ちゃ達なら大丈夫では……?」
『ふ、それはそう』


事実、十三はひとっつも傷を付けずに逃げた。汚ねえ手で追ってくる奴等をまいて、圧倒的な力で捩じ伏せた。この頃の名前と阿賀島は、自分達に矛先が向くなんて、思ってもみなかったのだ。


加地屋に入って少ししてから、春の陽気な空気を楽しんでいた二人を襲ったのは鉄パイプだった。突然、名前が阿賀島に抱き着き、ど~した甘えんぼか~?なんて巫山戯た事を言おうとすると、ゴッッと鈍い音がしたのだ。ずるりと女が崩れ落ちる。後ろに立っていた男共は、阿賀島が名前を抱き抱えてる間に二人を囲んだ。


「おい、女は傷付けんなって言われてたろ」
「知るかよ、秀臣も珍しいよな、好きにしろっていつも言うのに」


中坊の男女を囲むには余りに多い数。外っ側にはブォンとけたたましく鳴る単車。逃げ場等無いに等しい。名前ちゃ、名前ちゃ、と阿賀島が声を上げる。名前は唸って、フラフラと立ち上がった。だけど、こちらを見ない。名前が見るのは、少しだけ囲みが薄い箇所だった。


名前が抱えてたリュックを投げ付ける。同時に突っ込んで、叫んだ。『逃げろ』と。

女を殴ったのは不慮の事故で、多分人質程度だったのは解る。秀臣達も、一応女を可愛がっていたから。でも阿賀島は殺されるかもしれない。どうなるか解らない。三代目の汚名は徐々に広がっている、調子に乗った奴等がこれから何をするかなんて、解りきっている。それは、阿賀島だって解っていた。でも、


阿賀島が集団に蹴りを入れる。名前が叫ぶが、負けない程大きな声で怒鳴る。俺に恥をかかせる気かと。

秀臣が可愛がってるからと言って、コイツ等が名前になにもしないとは思えない。名前を置いて逃げる気なんて毛頭無かった。

一方的だった。飛びかかった名前は放り投げられ、何度も蹴られた。阿賀島はそんな名前を庇いながらも何人か倒して、何度も殴られ、蹴られ、鉄パイプに襲われた。

それでもしばらくは意識のあった名前だが、数人に囲まれて頭を地面に叩き付けられた瞬間意識を飛ばした。ぐったりとする女を男共が下卑た目で見て笑う。どうする?と。その頃には既に地面に倒れていた阿賀島は、もう指先すら動かすのが億劫で、自分も意識を飛ばしたかった。だけど、男共が名前を連れて行こうとした瞬間、名前が薄らと目を開けて、笑ったのだ。


ぶち、と何かがキレる音がした。自分を踏み付ける足を掴んで、阿賀島は思い切り噛み付いた。ぎゃあと悲鳴が上がる。フラフラと立ち上がり、ガァ、と唸る。既に肋は何本も折れ、腕と足にはヒビが入っている状態で、名前に触る男を殴り、蹴り、噛み付いた。

腕が完全に折れれば、折った男の手に噛み付いた。人間の歯というのは強いもので、本気で噛み付けば指なんて容易に千切れる。男が幸いだったのは、指ごと手の甲を噛まれたのであまり力が入らなかった事だろう。

バキボキ、と音がして、ぎゃあー!!!!と悲鳴が上がる。何度も何度も殴られたのに、起き上がる。名前を背にして戦い続ける。随分と男達の数も減って、阿賀島はもう正気じゃなかった。人間の言葉すら発せなかった。


「この、気狂い野郎が!!!!!」


ガコン、と頭を殴られ、阿賀島は最後とばかりに男の首に噛み付こうとした。それを止めたのは、龍信だった。


「もう、いい。お前等戻れ」
「こんだけやられてんだぞ!」
「一人にやられてちゃ世話ねーだろう。……さっさと行け」


男達が去っても、正気は戻らなかった。ぐるぐると唸り、尚も名前の前に立ちはだかる。名前は今にも死にそうな顔で阿賀島の足を掴むけれど、弱々しくて止めるには至らない。


「阿賀島、」
「がぁ……ガルル……」
「阿賀島、もういい、やめろ」
「ぁ゛あ゛ぁ゛がぁ゛!!!」


阿賀島は龍信の革ジャンごと肩に噛み付いた。それでも相当な痛みだってのに、龍信は阿賀島を抱き締めて、ごめん、本当に、……すまないと呟き続けた。


『た、け、』
「ぐぅ、るる、」
『も、ねよ、よ』


くい、と名前が阿賀島の足を引く。すると、徐々に阿賀島の力は弱まって、二人して意識を落としたのだった。
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