そつぎょう
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「そろそろ卒業生入場だって」
「名前は何処だ」
「親父カメラ返せ撮るのは俺の仕事だ」
「兄貴恥ずかしいから辞めてくれ」
「俺も写真撮って龍信に送ってやるかね」
「は????お前龍ちゃんと兄弟分だから大目に見てるとこあるぞ俺の妹だぞ???俺にも送れ」
「ハイハイ」
保護者席では村田家と県南からテルが駆け付けていた。可愛い従姉妹の卒業式くらい見に来る。卒業式なんて面白みもねえから良いよと言われたがそんな訳にもいかない。在校生のガタイの良い男が引く程泣いてるのを見た村田母が大丈夫かしら……と呟くと将五は「大丈夫だアイツただの名前厨で涙脆いだけだから」と死んだ目で答えた。将五はちゃんと辻本と面識がある。
卒業生入場、という声が響いて体育館の扉が開く。椅子を持った奴等がぞろぞろ入って来る。担任を先頭にして二列で歩いてくる中に名前の姿はあった。いつもの気怠い顔では無いので緊張しているらしい。全員が着席すると校長の話が入り、在校生の送辞。卒業生の答辞。いつも長ったらしくて嫌だなと思っていたけど、今日ばかりはあんまり気にならない。
少し前、名前は光政に戻れるなら戻るか、と聞いた。まさかと答えた光政に偉そうな事を言っておいて、名前は戻れるなら戻りたかった。色々やり直したい事なんざ死ぬ程ある。もっと何か出来たのではないか、もっと、もっとと欲張りになっちまう。今はただ、長い話が終わりませんようにと願っている。大人になんざなりたくねえなと心の奥が叫んで、皆と離れたくねえという気持ちが前面に出て来ちまっていた。
卒業証書授与では誰かしらやらかすだろうと思っていたのに誰もやらかさなかった。名前が酷く緊張していたからである。強いて言うならば保護者席がとても五月蝿かった。
合唱曲ではチラホラ泣く奴も出てきた。タケはちょっと泣いた。名前が泣かないのが不思議だなと思っていた。
とうとう卒業式が終わっちまって、一旦教室へ戻る。保護者も教室の後ろに来ていたので担任もガチガチだった。卒業アルバムと、一人一人に手紙が配られていく。同窓会の幹事も決めた頃、珍客がやって来た。校長である。校長は今じゃなきゃ言えないと思ってね、なんて言って名前を手招いた。
名前は困惑しながら前に出る。私校長になんかしたっけ?割と仲良しだった筈だけど。
「苗字さん。あのね、一個人の生徒に言うのはアレなんだけど、今日はお礼を言いに来ました。この学校、他の学校よりはマシだけれど、留年、退学、中退する人間は少なくないんです。……去年からかな、一個上の子達と、今年入った子達までの三世代、歴代で最も退学が少なかったんです。不思議になってね、成績が悪い子や単位がギリギリの子達と話した先生方と話したら、君の名前が出たんです」
『……』
「どうしても君と卒業したい、どうしても君の努力や君への恩に報いたい、そう言ってね。僕が知らない事も沢山あったと思う、でもね、ありがとう。一学年、丸々退学留年者無しの学年は、この学年が初です」
「すげーじゃん」
「まぁ名前っちに無様晒したくないわな~……名前っち?」
保護者の皆さんは流石私の娘やら流石俺の妹やら言っていたのだけど、蹲る名前にザワりとしちまった。どうしたのかと心配そうに見ていたけれど、名前は山田とタケに支えられなきゃ立っていられなかった。やり直したいと、戻りたいとさっきまで思っていたのに、それでも私は間違っちゃ居なかった。手探りで皆を護る為に必死に動いて来た事が、誰かに見られていた事が酷く……嬉しいような、悔しいような。複雑な感情のマンマ、名前達は卒業した。常磐の打ち上げは明日やるけれど、学校に来るのは大学進学する連中以外は最後なので皆でグラウンドで「お世話になりました!!!!!」と町内に響くくらいの大声を出した。
「じゃ、また明日ね」
「うん、また明日」
『明日ね』
真っ赤な顔で村田家の車に乗り込む。苦笑いを浮かべた将五がお疲れ、と背を叩いた。名前は少し深呼吸してから家に戻る前に寄って欲しい所があると運転する父に伝える。
「役目は果たしたったい」
セブンスターをカートンでドンと置く。滅多に着ねえ学ラン姿で現れた男は自分も煙草を口に咥えて溜め息を吐いて、俯いた。
「じゃまあみろ、キサンが死なんかったらわしが兄貴なんて呼ばれんかったとに。……もう、あん子は大丈夫、やけん、わしは帰る。気が向いたら、また来ちゃるわ」
誰にも言うつもりは無いけれど。九里虎はある意味名前と似通っていた。自由を愛す割に面倒事に巻き込まれに行く所も、死に魅入られている癖に死に嫌われている所も。あまりに死に近いあの妹分を、九里虎は放っては置けなかった。……本当に、本当に誰にも言わないけれど……もしかしたら黒澤にはバレているのかもしれない。あの日九里虎が補習をサボった理由。本当に嘘を混ぜ込むのは大の得意なモンで、勘のいい妹分にもバレてないのだからこれから先も誰にも言うことはないだろう。
『九里虎兄ちゃん』
「名前チャン」
『来てたんだ』
「最後やけん」
『福岡戻るの?』
「おん。いつでん遊びに来んしゃい、案内しちゃるけん」
『ホント?ホントに行くからね?』
「約束やね」
可愛らしく二人は鉄生の墓の前で指切りげんまん。名前は鉄生の墓に自分の胸ポッケに刺さっていた花を取って置いた。少し黙って、踵を返す。もういいんか、と問えば『長居するとお話出来ないでしょ』と言われちまった。まさかあの子に気を遣われるとは、と九里虎は鼻で笑ったのだった。
「名前は何処だ」
「親父カメラ返せ撮るのは俺の仕事だ」
「兄貴恥ずかしいから辞めてくれ」
「俺も写真撮って龍信に送ってやるかね」
「は????お前龍ちゃんと兄弟分だから大目に見てるとこあるぞ俺の妹だぞ???俺にも送れ」
「ハイハイ」
保護者席では村田家と県南からテルが駆け付けていた。可愛い従姉妹の卒業式くらい見に来る。卒業式なんて面白みもねえから良いよと言われたがそんな訳にもいかない。在校生のガタイの良い男が引く程泣いてるのを見た村田母が大丈夫かしら……と呟くと将五は「大丈夫だアイツただの名前厨で涙脆いだけだから」と死んだ目で答えた。将五はちゃんと辻本と面識がある。
卒業生入場、という声が響いて体育館の扉が開く。椅子を持った奴等がぞろぞろ入って来る。担任を先頭にして二列で歩いてくる中に名前の姿はあった。いつもの気怠い顔では無いので緊張しているらしい。全員が着席すると校長の話が入り、在校生の送辞。卒業生の答辞。いつも長ったらしくて嫌だなと思っていたけど、今日ばかりはあんまり気にならない。
少し前、名前は光政に戻れるなら戻るか、と聞いた。まさかと答えた光政に偉そうな事を言っておいて、名前は戻れるなら戻りたかった。色々やり直したい事なんざ死ぬ程ある。もっと何か出来たのではないか、もっと、もっとと欲張りになっちまう。今はただ、長い話が終わりませんようにと願っている。大人になんざなりたくねえなと心の奥が叫んで、皆と離れたくねえという気持ちが前面に出て来ちまっていた。
卒業証書授与では誰かしらやらかすだろうと思っていたのに誰もやらかさなかった。名前が酷く緊張していたからである。強いて言うならば保護者席がとても五月蝿かった。
合唱曲ではチラホラ泣く奴も出てきた。タケはちょっと泣いた。名前が泣かないのが不思議だなと思っていた。
とうとう卒業式が終わっちまって、一旦教室へ戻る。保護者も教室の後ろに来ていたので担任もガチガチだった。卒業アルバムと、一人一人に手紙が配られていく。同窓会の幹事も決めた頃、珍客がやって来た。校長である。校長は今じゃなきゃ言えないと思ってね、なんて言って名前を手招いた。
名前は困惑しながら前に出る。私校長になんかしたっけ?割と仲良しだった筈だけど。
「苗字さん。あのね、一個人の生徒に言うのはアレなんだけど、今日はお礼を言いに来ました。この学校、他の学校よりはマシだけれど、留年、退学、中退する人間は少なくないんです。……去年からかな、一個上の子達と、今年入った子達までの三世代、歴代で最も退学が少なかったんです。不思議になってね、成績が悪い子や単位がギリギリの子達と話した先生方と話したら、君の名前が出たんです」
『……』
「どうしても君と卒業したい、どうしても君の努力や君への恩に報いたい、そう言ってね。僕が知らない事も沢山あったと思う、でもね、ありがとう。一学年、丸々退学留年者無しの学年は、この学年が初です」
「すげーじゃん」
「まぁ名前っちに無様晒したくないわな~……名前っち?」
保護者の皆さんは流石私の娘やら流石俺の妹やら言っていたのだけど、蹲る名前にザワりとしちまった。どうしたのかと心配そうに見ていたけれど、名前は山田とタケに支えられなきゃ立っていられなかった。やり直したいと、戻りたいとさっきまで思っていたのに、それでも私は間違っちゃ居なかった。手探りで皆を護る為に必死に動いて来た事が、誰かに見られていた事が酷く……嬉しいような、悔しいような。複雑な感情のマンマ、名前達は卒業した。常磐の打ち上げは明日やるけれど、学校に来るのは大学進学する連中以外は最後なので皆でグラウンドで「お世話になりました!!!!!」と町内に響くくらいの大声を出した。
「じゃ、また明日ね」
「うん、また明日」
『明日ね』
真っ赤な顔で村田家の車に乗り込む。苦笑いを浮かべた将五がお疲れ、と背を叩いた。名前は少し深呼吸してから家に戻る前に寄って欲しい所があると運転する父に伝える。
「役目は果たしたったい」
セブンスターをカートンでドンと置く。滅多に着ねえ学ラン姿で現れた男は自分も煙草を口に咥えて溜め息を吐いて、俯いた。
「じゃまあみろ、キサンが死なんかったらわしが兄貴なんて呼ばれんかったとに。……もう、あん子は大丈夫、やけん、わしは帰る。気が向いたら、また来ちゃるわ」
誰にも言うつもりは無いけれど。九里虎はある意味名前と似通っていた。自由を愛す割に面倒事に巻き込まれに行く所も、死に魅入られている癖に死に嫌われている所も。あまりに死に近いあの妹分を、九里虎は放っては置けなかった。……本当に、本当に誰にも言わないけれど……もしかしたら黒澤にはバレているのかもしれない。あの日九里虎が補習をサボった理由。本当に嘘を混ぜ込むのは大の得意なモンで、勘のいい妹分にもバレてないのだからこれから先も誰にも言うことはないだろう。
『九里虎兄ちゃん』
「名前チャン」
『来てたんだ』
「最後やけん」
『福岡戻るの?』
「おん。いつでん遊びに来んしゃい、案内しちゃるけん」
『ホント?ホントに行くからね?』
「約束やね」
可愛らしく二人は鉄生の墓の前で指切りげんまん。名前は鉄生の墓に自分の胸ポッケに刺さっていた花を取って置いた。少し黙って、踵を返す。もういいんか、と問えば『長居するとお話出来ないでしょ』と言われちまった。まさかあの子に気を遣われるとは、と九里虎は鼻で笑ったのだった。