そのご
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『ンで、負けたんだ』
「……」
『不貞腐れてんの』
「……すんません」
『うん?』
「許可取ったとはいえ、他校と喧嘩して。……負けて、すんません」
『ンだよ落ち込んでんのかァ~??』
ブライアンの端っこで可愛い奴ぅ、と名前はケラケラ笑った。宮本は拒否していたけれど、なんとかこぎつけたタイマンに久我は負けた。マ、久我は山田とタケに叩きのめされても諦めなかった男だ、そのタフさから負けるとは思って居なかったけれどその宮本ってーのが相当強かったってだけだ。クソ鈴蘭の次代を担うに相応しいんだろうな。
ボロッボロで肩を落としたまんま久我は頭を下げている。いーからさっさと頭上げなさいよマスターに変に思われるでしょ。名前は苦く笑ってパンケーキをぱくり。
『ねえ』
「ッ、ス」
『どうだった、その宮本ってのは』
「……、強かっ、た、ス。ただ、その」
『ん?』
「怒んないスか」
『うんうん、良いよ。怒んないよ』
「俺は、アイツに負けて悔しい、ってより、こう。なんかなぁ、ってなっちまって」
『うん』
「佐島とやり合ってた時とかは、そんな事無かったンです。黒澤さんとか、阿賀島さんに負けた時みてーに、鍛えて絶対ぇそのうち勝ってやるって気持ちが、まるで湧かなかったンです。くだらねえ、負けちまった奴が思う事じゃねーけど、喧嘩してる最中、コイツと喧嘩してもなんにもならねーって、思っちまった。……変ですか」
『うんにゃ、変じゃないよ。きっとお前それは、虚しかったンだろね』
「虚しい?」
『うん。それは余りに強かったから、とかじゃなくね。私は宮本の事ァ良く知らねえからなんとも言えないけど、そうだなぁ。ソイツはさ、きっとお前を見てなかったんだよ』
「俺を?」
『タイマン仕掛けてきた他校の知らねえ奴。誰が強いとか、どうでもいいのに騒ぎを持ってきたただのそこらのゴミ』
くしゃりと顔を歪める久我をちらりとも見ずに名前はマスターに『マスターココア!』と元気よく手を上げる。
「俺が、ゴミッスか」
『うん。私にとって宮本がゴミに等しくどうでもいい存在であるように、宮本にとっちゃ知らねえ土地の、知らねえ蝿が周りでブンブン飛び回ってるよーなモンだろ。お前がもし途中でその虚しさを抑えきれていたら、負けたとしても今度やる時はそこらのゴミからそこらの石くらいにゃグレードアップしたんじゃない?』
「……怒んねえっつったのに」
『怒ってねえさ。だけど、お前の悪い癖が出ちまったンだから、そこをグリグリ抉ってやんのも優しさでしょう』
「悪い癖?」
『お前は人を舐めてかかるからね』
「俺が?」
『山田の時もそう、タケの時もそう。こんなヒョロっとした優男に負けねー、こんなチャラついた奴に負けねー、俺は中坊の頃から修羅場を潜り抜けたンだ、こんな甘い事やってる常磐の頭になんか負けねー』
全部事実である。名前の言葉のチェーンソーは確実に久我を切り刻んでいく。
久我は大事な後輩だ。だから、私が卒業しちまう前に。辻本に余計な憂いを残さぬように。コイツがいずれ常磐を背負って立つ為の言葉を残さなければ。
『お前に足りないのはさ、覚悟だよ。背負った看板の重さを知らない事だよ。佐島に勝ったって言うソイツを、自分よりも強いと認められないその心だよ』
「ッ俺は!」
『強いと思ってたら、お前が感じた虚しさは怒りに変わる筈だよ。自分へのね。お前は無意識に人を下に見る所がある。だからお前はさっき私にゴミと言われた時、宮本に怒りを向けないで私に怒りを向けたでしょう』
決して、久我は名前を認めていない訳では無い。尊敬出来る頭だと心から思っている。けれど、心のどこかで。名前に勝てる部分があると思っている。間違いではない、結局男女差ってーのはデケェから、単純な力の差なら名前は負けちまう。けれど。
『九里虎、居るでしょう』
唐突に話が変わる。急になんだよと訝しみながら見遣ると名前は随分と懐かしむような、悲しいような目をしていた。
『九里虎ってのはさ、急にぽっと現れて、そこらの人を混乱に陥れたクソ魔王なんだけどさ』
「仲良いんだよな?」
『そりゃ酷い混乱だったらしいよ、何せ入学したてで当時新四天王って呼ばれてた鈴蘭の顔役を倒しちまった。鳳仙の奴等も叩きのめして、鈴蘭の他のバチバチいってる奴等もぜーんぶぶっ飛ばした。でもねえ、九里虎は元々喧嘩なんて望んじゃー居なかった。自分がしてえ事をして、邪魔する奴をぶっ飛ばすだけだった。まぁ、同じって言ったら烏滸がましいけど、似てると思わない?』
「……」
『九里虎にねえ、ぶっ飛ばされた人が居たんだ。他の奴等、みーんなもう絶対アイツにゃ敵わねえって思ってた。その人も例外じゃなかった。イケイケだったのに、いつもなら負けても次は絶対勝つと思えたのに九里虎にはそう思えなかった。むしろ恐怖さえ覚えちまった。でも、その人はそんな自分に腹が立って……何したと思う?』
「……いえ」
『橋から川に飛び込んだ』
「なんて?」
『いや私も聞いた時馬鹿だなって思ったよ。でもその人は単純な人でね。怯えてる自分に怒りを覚えた。そんな自分を振り払う為にそうしたんだ。結果、その人はめちゃくちゃに頑張ってね。……最後、また負けたけど、九里虎言ってた。次やったら解らないって。もし、自分を負かす奴が居るとしたらアイツか、花くらいだって』
「……。そ、」
『ん?』
「その人に、話、聞けませんか」
名前はその言葉に嬉しそうな、悲しそうな顔をしてダメ、と答えた。遠くに行っちまったから、と。
『久我、お前は良い奴だ。私が目にかける位ね。生半可に強かったお前の悪い癖、どうにかなったら大きく化けるだろうよ』
名前は苦く笑ってから立ち上がり、久我の分まで払って出ていっちまった。久我は、どうしたらいいか解らなくなった。
『ンで、負けたんだ』
「……」
『不貞腐れてんの』
「……すんません」
『うん?』
「許可取ったとはいえ、他校と喧嘩して。……負けて、すんません」
『ンだよ落ち込んでんのかァ~??』
ブライアンの端っこで可愛い奴ぅ、と名前はケラケラ笑った。宮本は拒否していたけれど、なんとかこぎつけたタイマンに久我は負けた。マ、久我は山田とタケに叩きのめされても諦めなかった男だ、そのタフさから負けるとは思って居なかったけれどその宮本ってーのが相当強かったってだけだ。クソ鈴蘭の次代を担うに相応しいんだろうな。
ボロッボロで肩を落としたまんま久我は頭を下げている。いーからさっさと頭上げなさいよマスターに変に思われるでしょ。名前は苦く笑ってパンケーキをぱくり。
『ねえ』
「ッ、ス」
『どうだった、その宮本ってのは』
「……、強かっ、た、ス。ただ、その」
『ん?』
「怒んないスか」
『うんうん、良いよ。怒んないよ』
「俺は、アイツに負けて悔しい、ってより、こう。なんかなぁ、ってなっちまって」
『うん』
「佐島とやり合ってた時とかは、そんな事無かったンです。黒澤さんとか、阿賀島さんに負けた時みてーに、鍛えて絶対ぇそのうち勝ってやるって気持ちが、まるで湧かなかったンです。くだらねえ、負けちまった奴が思う事じゃねーけど、喧嘩してる最中、コイツと喧嘩してもなんにもならねーって、思っちまった。……変ですか」
『うんにゃ、変じゃないよ。きっとお前それは、虚しかったンだろね』
「虚しい?」
『うん。それは余りに強かったから、とかじゃなくね。私は宮本の事ァ良く知らねえからなんとも言えないけど、そうだなぁ。ソイツはさ、きっとお前を見てなかったんだよ』
「俺を?」
『タイマン仕掛けてきた他校の知らねえ奴。誰が強いとか、どうでもいいのに騒ぎを持ってきたただのそこらのゴミ』
くしゃりと顔を歪める久我をちらりとも見ずに名前はマスターに『マスターココア!』と元気よく手を上げる。
「俺が、ゴミッスか」
『うん。私にとって宮本がゴミに等しくどうでもいい存在であるように、宮本にとっちゃ知らねえ土地の、知らねえ蝿が周りでブンブン飛び回ってるよーなモンだろ。お前がもし途中でその虚しさを抑えきれていたら、負けたとしても今度やる時はそこらのゴミからそこらの石くらいにゃグレードアップしたんじゃない?』
「……怒んねえっつったのに」
『怒ってねえさ。だけど、お前の悪い癖が出ちまったンだから、そこをグリグリ抉ってやんのも優しさでしょう』
「悪い癖?」
『お前は人を舐めてかかるからね』
「俺が?」
『山田の時もそう、タケの時もそう。こんなヒョロっとした優男に負けねー、こんなチャラついた奴に負けねー、俺は中坊の頃から修羅場を潜り抜けたンだ、こんな甘い事やってる常磐の頭になんか負けねー』
全部事実である。名前の言葉のチェーンソーは確実に久我を切り刻んでいく。
久我は大事な後輩だ。だから、私が卒業しちまう前に。辻本に余計な憂いを残さぬように。コイツがいずれ常磐を背負って立つ為の言葉を残さなければ。
『お前に足りないのはさ、覚悟だよ。背負った看板の重さを知らない事だよ。佐島に勝ったって言うソイツを、自分よりも強いと認められないその心だよ』
「ッ俺は!」
『強いと思ってたら、お前が感じた虚しさは怒りに変わる筈だよ。自分へのね。お前は無意識に人を下に見る所がある。だからお前はさっき私にゴミと言われた時、宮本に怒りを向けないで私に怒りを向けたでしょう』
決して、久我は名前を認めていない訳では無い。尊敬出来る頭だと心から思っている。けれど、心のどこかで。名前に勝てる部分があると思っている。間違いではない、結局男女差ってーのはデケェから、単純な力の差なら名前は負けちまう。けれど。
『九里虎、居るでしょう』
唐突に話が変わる。急になんだよと訝しみながら見遣ると名前は随分と懐かしむような、悲しいような目をしていた。
『九里虎ってのはさ、急にぽっと現れて、そこらの人を混乱に陥れたクソ魔王なんだけどさ』
「仲良いんだよな?」
『そりゃ酷い混乱だったらしいよ、何せ入学したてで当時新四天王って呼ばれてた鈴蘭の顔役を倒しちまった。鳳仙の奴等も叩きのめして、鈴蘭の他のバチバチいってる奴等もぜーんぶぶっ飛ばした。でもねえ、九里虎は元々喧嘩なんて望んじゃー居なかった。自分がしてえ事をして、邪魔する奴をぶっ飛ばすだけだった。まぁ、同じって言ったら烏滸がましいけど、似てると思わない?』
「……」
『九里虎にねえ、ぶっ飛ばされた人が居たんだ。他の奴等、みーんなもう絶対アイツにゃ敵わねえって思ってた。その人も例外じゃなかった。イケイケだったのに、いつもなら負けても次は絶対勝つと思えたのに九里虎にはそう思えなかった。むしろ恐怖さえ覚えちまった。でも、その人はそんな自分に腹が立って……何したと思う?』
「……いえ」
『橋から川に飛び込んだ』
「なんて?」
『いや私も聞いた時馬鹿だなって思ったよ。でもその人は単純な人でね。怯えてる自分に怒りを覚えた。そんな自分を振り払う為にそうしたんだ。結果、その人はめちゃくちゃに頑張ってね。……最後、また負けたけど、九里虎言ってた。次やったら解らないって。もし、自分を負かす奴が居るとしたらアイツか、花くらいだって』
「……。そ、」
『ん?』
「その人に、話、聞けませんか」
名前はその言葉に嬉しそうな、悲しそうな顔をしてダメ、と答えた。遠くに行っちまったから、と。
『久我、お前は良い奴だ。私が目にかける位ね。生半可に強かったお前の悪い癖、どうにかなったら大きく化けるだろうよ』
名前は苦く笑ってから立ち上がり、久我の分まで払って出ていっちまった。久我は、どうしたらいいか解らなくなった。