そのじゅうよん
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ふら、ふらとした女がそこに在った。内藤兄弟と善明に挟まれた光義は、満身創痍であった。そこに、女は現れたのである。
内藤兄弟がまたあの女、と構える。そして、光義も、善明も、アッと声を出すも、女には二人の顔なんざ見えちゃ居なかった。喧嘩の真っ最中だってのに、善明がお、おい、と名前の肩を掴む。くるり、と宙を待ったのは、善明だった。放り投げられた善明は何が起こったか解らず眼をぱちくりさせる。
その隙に光義が名前を担いで善明の横を通り抜け逃げる。内藤兄弟が追いかけるも、遅かった。
ぜぇ、ぜぇと息を切らす。光義が名前を見るが、未だに名前はどこも見ちゃ居なかった。どこか、危ない目をしていた。
「光政ァーーー!!!!光政は帰っとるか!!」
「義兄うるさ……名前ちゃん!!?」
「光希、母ちゃんに飯一人増えるって言っといてくれ」
「わ、解った!」
どかどか光政の部屋に勝手に入り込み、光政が名前を見て目を見開く。光義の怪我にも突っ込みたいのに。
光義が光政をベッドから蹴り落として名前を座らせる。蹴落とす事あった?めちゃくちゃ不本意な顔で光義を見てから、スッと顔を引き締めて名前を見る。あの時からずっと、痩せこけた顔だった。
「よー、名前。久しぶり。話は聞いてたけどよ」
『……』
「今日鍋らしいぜ!カカ、とりあえず食わねえか」
『……』
あ、駄目だと、光政の頭で浮かんだ。名前の目には何も映らねー、心が壊れかけていると。光義もそれにうっすら気付いたのか、なんとも言えない顔をする。そこに、下からデケェ声で母ちゃんが「光政!!光法が!!」という声が響いた。なに、と二人がこれまたデケェ声を出すと、名前の肩がびくりと揺れる。
「名前、ちょっと寝てろ、すぐ来る。な」
「今日の鍋はキムチだからな~、お前好きだろ。ほれ横になって、」
6人兄弟の上の方、お兄ちゃん力を全力で出して名前をベッドに寝かし付けて急いで下へ。茶の間で母ちゃんから光法が病院に運ばれたと連絡が来たと聞いて、ようやく光義も善明達に襲われた事を伝える。じゃあ、光法も。
カタン、なんて音がして、まさかと光政が扉を開けるともうそこに名前の靴は無かった。直後に、光信から、山田から名前が行方不明になったと連絡が来たと、告げられた。
「名前ーーーーーーーーーーッ名前!どこだ!!!」
「名前っち、名前゛っ゛ち゛ーー!!!」
鬼の形相で探す山田、もう涙が止まらないタケ。名前が行方不明になったと知っているのはこの二人と十三、連絡した光信(月本家)。そして、好誠と柳、黒澤和光と原田十希夫だった。この勢力争い真っ只中で、大人数には伝えられず、引退した奴を引っ張りだそうという目論見で、今各々探してくれていた。
本当に一瞬だった、名前が家に帰った将五とは会いたくねえと言ったので、タケの家でワイワイしていたのだ。山田が手洗いに行って、タケがケーキ持ってこよね!待ってなね!と、席を外した一分以内。中学時代より隠密スキルが異常発達してやがる。
「ンのクソアマ゛ーーーー!!!!!」
「え゛え゛ーーーーーん名前゛っ゛ち゛と゛こ゛ぉ゛」
「ねえタケどっから声出してんだそれ」
好誠は焦っていた、将太からこの間連絡があった時に言っていたのだ、「名前、死にたいって、言ってました」と。
まさか、とは思いたい。後を追うなんて考えたくもない。でも今回は、今までのものとは違う。アイツは自分のせいで鉄生が死んだと思っている。
「草の根分けても探し出すぞ柳!!」
「解ってる!」
色んな思いが交差する中、一番最初に見付けたのは 、とある男が死んだ川原の橋の下で自分を掻き抱いて震えている女を見つけたのは、十希夫だった。
「よぉ、いい夜だな、名前」
十希夫の顔を見て、認識して、名前の顔は恐怖に、絶望に染まる。十希夫はぐ、と表情を引き締めて、すぐに笑う。
「隣良いか」
返事なんざ聞いてないのに十希夫は名前の隣に腰を下ろした。逃げようとする肩を抑えて、良いから、と。
「ほれ、吸うか?」
『……いらない』
「そうかい」
無言。名前は話したくなかったし、十希夫は名前を待っていた。ただ、名前が十希夫を見て過呼吸でぶっ倒れないだけマシだと思っていた。
『……なんで、きたの』
「お前が居なくなったからだな」
『ほっといてよ』
「無理だな」
『もう死なせてよ』
「絶対に嫌だな」
『もういやだよ』
「そうだな」
ここで十希夫は気付く。名前はきっと、九里虎やクロサーは完全に鈴蘭と見なして怯えて居たのだろう、と。自分と今こんなに密着して倒れていないのは、もしかしたら、と。
「……会えなくて寂しかったんだぜ、俺は」
『……私は会いたく、なかったよ』
嘘が下手な女なのは解っていたけれど、ここまでとは思わなかった。そんな震えた声で言われて信じられるわけが無い。
「なぁ、名前」
『……』
「よく頑張ったな」
名前が十希夫を睨む。お前までそんな事を言うのかと。お前も私を責めないのかと。
「俺はよ、鉄生とも付き合いがまぁあったし、死んで悲しかったよ。死ぬなんて考えてもいなかった、でもな、お前がその場にいたって聞いた時、無事で良かったって思っちまった」
『とっき、』
「酷でぇ話だ、その事でお前が悩んでるってのに、皆悲しんでんのに、それでもお前の無事を喜んじまった」
『やめて』
「俺ァ、お前が生きていてくれた事が、何よりも嬉しいぜ」
『やめてってば』
「なぁ、名前」
『聞きたくない!!!!』
名前が頭を抱えちまった。それでも、十希夫は続ける。続けなきゃいけない。
「鉄生は、お前に後を追わす為に庇ったのか?」
ガツン、と頭を殴られるような衝撃が走った。ふるふると震えながら十希夫を見る。十希夫はふ、と困ったように笑って、言葉を吐いた。
「鉄生は、お前に生きて欲しいから庇ったんじゃねーのか?」
そこまで言うと、名前が黙った。数分黙ってるからそろそろ心配になってきて、十希夫は顔を覗き込んでみる。
「あ、」
名前は泣いていた。鉄生が死んでから、一度も流せなかった涙を、今流していた。思わず十希夫は名前を抱き締める。
『お兄ちゃん、お兄ちゃん、』
「……あぁ」
『お兄ちゃんに会いたい、お兄ちゃん、会いに行きたい、』
「悪い、行かせてやれねえ」
『どうして、会いにいかせて』
「俺はまだお前と居たい」
『もうやだ、みんな私を置いていく』
「俺は絶対お前を置いていかねえから、だから、」
頼むから行かないでくれ、そう言われて名前はまた泣いた。いつまでも涙が止まらなかった。