その十三
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天地が怪我だらけで、大東が河二の馬鹿な男を追い返した頃。この場の誰も吸ってない煙草の煙が流れて、康明が立ち上がる。
いつの間に居たのか、天地の座る椅子の背に寄りかかって煙草を吸う苗字名前。お前、と康明が言うや否や名前は立ち上がる。
表情にはなにも浮かばない。一切の無である。寿と目が合おうが、一切。大東はこの女を知っていた、中学時代にちょっとだけ因縁がある。名前も大東は微妙に覚えていたので、なるほど寿、良いのを付けたなと思っていた。
『契約違反は、許さないんだよ』
「名前、」
『今日ね、宣戦布告しに来たんだ、寿』
寿によく冷えた酒を投げ渡す。自分の分もプシュッと開けて、笑えもしないって言うのに寿の持つ酒にカツン、と当て、ごくごくと飲んでいく。
『約束の期日に箕月を貰えなかった挙句、箕月に逃げられた……なんて、まぁ信じられる訳が無いものね』
「名前」
『常磐高校は、お前等を殲滅するよ』
ピリッと空気に殺気が走る。例えよく知った女であろうと、殲滅という言葉は頂けない。普段であれば名前もケラケラ馬鹿にして笑って言うけれど、真顔だからちょっと格好が付かない。
『待った方だろ、こっちは前の頭もやられて、私は襲われて、今回死にかけて───────兄貴を喪った』
ひゅ、と天地の喉がなる。天地だって、武装は嫌いだけれど幼馴染という関係上付き合いはあった。し、何より名前の“兄貴を喪う”というワードは十三含む幼馴染連中のド地雷であったから。この場に善明が居たら殲滅なんて物騒な言葉があったにも関わらずあの凶悪な顔で名前に抱き着いて泣いていたかもしれない。康明は善明程名前を好きじゃないので留まったが。
『今日は引くよ、だけどね』
明日から、容易に町を歩けると思うなよ
そう吐き捨てて名前は出て行った。康明やガガ、大東が天地を見るがフルフルと首を振る。
「……多分、外に番犬が待ってやがるからな」
天地や他の幼馴染はまだ知らない、番犬の他に狂犬が加わった事も、幼馴染はガチめに命の危機に扮していることも。
さて、今武装は鉄生を亡くし、次代が居なく、黄泉の梟が町に進行。ちょこちょこ襲撃にあい、削られている時のこと。整備工場のフジキには金と拓海、佐々木の春がいて話し合っていた。
「中立なんてもんは俺等の世界にはないっスよ!」
「うわ〜流石名前の後輩。めちゃくちゃいい事言うじゃん」
「友っち離して!!!!あのクソッタレ共俺ちん殺さなきゃ!!!!ころちっち!!ころちっち!!!」
「対名前幼馴染兵器はステイしてて」
「待って金俺凄い嫌な声聞こえた気がする」
「奇遇だな拓海、俺もだ待って吐き気してきた」
ガルル、と唸りながら今にも拓海と金に飛びかかりそうな阿賀島と、それを苦笑いで抑えながら歩いてくるのは山田。名前も阿賀島本人も言っていたけれど、マジで殺気立ってる。こわ……。
「……山田」
「よ、拓海くん。久しぶり、村田家で会ったっきりかな」
「あぁ。……名前は?」
「テメ〜〜〜ドブカス野郎名前っちの名前を出してんじゃね〜!!!!!」
「タケちゃん黙ってていやマジで」
「……」
「金の兄貴俺の後ろに隠れるのやめてください」
「あ!春ちゃ〜!!元気?可愛いねえ!大きくなったねえ!」
「あ、はい。お久しぶりッス、阿賀島さん」
「固いねえ〜!!!あのド腐れファッキン野郎の後輩とか思いたくないちゃ。あのね友っち!春ちゃはね!礼儀正しいしね!可愛いからしゅき」
「うん解った、じゃあ春ちゃと遊んでて」
「山田さん」
「お願いね春ちゃん」
「山田さん!!!」
「春ちゃ何する?鬼ごっこ?得意よ俺ちん」
「するなら俺が鬼で。阿賀島さん鬼だとクッソ怖いんすわ」
「そんなとこもしゅき?????」
「う………………す…………」
えへえへと春の頭を撫でくりまわした挙句肩車ちて!!!とはしゃぐ阿賀島と、育児疲れみたいな顔した春を置いといて、山田は拓海と金に向き直る。
「今日はね、名前の指示じゃないんだ。俺達の独断で会いに来た」
「……何の用だ?お前がそういう時大抵ろくな事じゃねーだろ」
「今回は喧嘩売りに来たわけじゃないよ。ただ、そうね。春と言うことは似てるかな。お前、そろそろハッキリしてくれる?今の六代目じゃ、冷静さを欠いてこのまま潰れかねない事、解ってる筈でしょ」
金と拓海が息を呑む。流石に、言葉を選べよとは言ったが、金の話的にはそうなり得るとは思っていた。
「名前はしばらく武装に触れない。武装に関わる全てを拒絶するだろうね。……でも、潰れられても困るんだ、名前が死んだらどうしてくれるの?……拓海くん。お前なら、瓦解策、あるでしょ」
「……」
「俺等やる事沢山あるからさ〜!言ってないけど、今、名前をテッペンに置いて、俺等は兵隊なワケ」
「なっ、は!?」
「色々あってね。ま、今それくらいの責任押し付けないとアイツ死にかけだから。……そうね、俺は名前じゃないからそこまでだけど、多分そろそろ忙しくなるから。頑張りなね」
「まっ、名前は!?今、どこに」
「テメーーーーみたいな半端もんに会わせるわけねーーーちや!!!!!ねっ春ちゃ〜?」
「阿賀島さん、デカい声出さないでください。耳痛いんで」
「こ゛め゛ん゛ね゛」
すた、と春から降りた阿賀島は拓海と金に極限まで顔を近付けて、「全部終わるまでの命、楽しんどけよな」とクソ低い声で言った。中学時代川に投げ捨てられた金と肋を治る度に五回程折られた拓海は完全にトラウマを刺激されたけれども、なんとか持ち堪えた。返事は、出来なかった。
「名前、黄泉の梟、来てるみたい」
『あんがと、A。お前勉強もあるんだから無理すんなよ』
「こんなん朝飯前です〜!!!各々手が空いてる時にやってるから気になさんな」
完全に裏で操って、遊んでいやがる。武装潰して、後は?……簡単だ、町がめちゃくちゃになる。いつも大きな抗争の後は戸亜留から引っ越すやつが多くなる、それ狙いかな。愛の逃避行ね、笑える。
『寿のとこ、ことごとく邪魔したら、いい感じかな』
河二も落ちた、黒工も落ちた、その周辺も沢山落ちた。もう善明も動いてる。さて、次は……
『友哉、タケ。今どこ?』
「あんた……月光兄弟の長男、光信だろ?」
善明と一期と一会が働いている光信を囲む。その時、「えへへ〜!!!!友っち俺ちんがやっていいの〜!!!?」と爆音が聞こえた。
「おー、お久しぶりです光信さん。お仕事お疲れ様ッス」
「お前、山田……?と、」
「タケ、俺の分残してよ」
「は?嫌。このクソドレッド野郎はずっっっっと狙ってたんだも。ころちっち」
「テメェ……阿賀島……ッ」
阿賀島は善明が武装並に嫌いである。名前の浴衣姿を見て鼻血ぶったらして倒れたのを見てから完全に敵判定、何度か殺しあった(一方的)事があった。そして善明、阿賀島がめちゃくちゃ危険人物なのは知っているし、なんでここに居るのかだとか諸々考えて、
「邪魔すんじゃねー!!」
「やめろ一会!!」
殴り掛かる一会の頭に鋭い蹴りが入る。一瞬で意識を刈り取るそれは、かの大魔王を彷彿させるような威力であった。
「や、山田、これは」
「うちのご主人がね、光信さんが狙われると思うから護れってさ。いや〜、流石に社会人に手出すとは思わかなったけど、流石だな〜」
名前からこの指示を受けた時、二人は顔を見合わせた。マジ?と。でも二人して名前が言うならそうなるか〜、とやる気満々で来たらマジだった。
「よっっっくもそのブッサイクな面で町出歩いてやがりますわねチヂレ野郎。今日こそはその首貰い受けちっち」
「っっってみろこの野郎」
「一期、一旦引くぞ」
「え!」
「手に負える相手じゃねー!殺すのは後だ」
「逃がすと思ってんのかボケカスが!!!!!」
「あ、タケちゃ〜ん。名前がご飯ずっと食べてないらしいからヘルプ呼ばれたよ〜」
「はあ〜い!!!」
一気に殺気が霧散する。善明が名前の名を聞いてぴた、と動きを止めた。それを見て、山田がニヤリと笑う。阿賀島は一瞬止まって善明に向き直る。
「次会えたら、また裸でハッテン場に置いてきてやるからな」
「ウ゛ッッッッッ」
光信さん学校まで送ってって!良いよ!俺の返事を待て!!!!そんな風に騒がしく光信と共に去っていった。善明は静かに冷や汗を流しながら、天地に「阿賀島が、名前の下に付いた」と連絡を入れたのだった。
「……名前は、」
「踏ん張らせてます。そうでもしないと、壊れちまうから」
「信ちゃ〜?うまい棒食べる?納豆味!」
「誰が信ちゃじゃ、誰が」
学校まで無事送って貰って、あんがと〜!と二人が去ろうとする時、光信が止める。
「名前に、何時でも家に来いと、伝えてくれ。月本家は……名前の味方だってな」
「…………ウッス、あんがと、光信さん」