そのにじゅうに
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二人でゆっくり水槽を眺める。ねえ見て鮫。デカイな。言葉数は少ないけれど、二人の視線は交わらないけれど、その目に浮かぶのは随分と暖かい色で、燃えるような、と言うには温く、氷のようなと言うには熱すぎる、不思議な色であった。
「少し休むか」
『うん。なんか飲む?』
「買いに行こうか」
『私ねえ今ミルクティーの気分』
「たまにカフェオレでも飲むかね」
『珍しい、いつもブラックなのに』
「気分だよ」
『カフェオレね私コーヒーの匂い消さない良いやつ知ってるよ』
「おー、教えてくれよ」
『ただし舌は私基準ね』
「……もうちょい甘さ控えめで頼むわ」
『冗談だよ』
二人して自販機で飲み物を買ってそこらに置いてある椅子の一つに座る。目の前でイワシの大群がぐるぐると渦をまいているのを凄いね~なんて気の抜けた声を出しながら名前はミルクティーに口をつけた。
「美味そう~なんてのは言わねえのな?」
『捌いてたら言うけど言うより食った方が早くない?』
「ハハ、お前美味そうな顔で飯食うしな。解りやすい」
『喧しくない?』
「はいはい」
『とっきーももう卒業だね』
「そうだな」
『しばらくは仕事仕事でしょ』
「そうだな」
『……』
「なんだ、寂しいとでも?」
そう言うと名前は黙っちまった。寂しいなんて、別にいつも十希夫と会ってる訳じゃねえってのに。周りにゃ幼馴染達も相棒達も居るのだから、そんな事ある訳ねえのに何故か言葉に詰まって視線を下げる。それを見て十希夫はいつものように首筋をカリカリと掻いた。
「名前」
『、なに』
「あのよ、あー……」
この間のように勢いに身を任せている訳でもない状態で十希夫は頭がぐるぐると回る錯覚に襲われた。言ってもし関係が変わったら。いや、関係を変えたくて言うのだけど。もし疎遠になったら?
ンでも、それでも。
「なぁ、名前。俺ァ、俺が卒業しても、お前が卒業しても、仕事で忙しくても一緒に居てえよ」
『……』
「出来りゃァ、お前にも同じ気持ちで居て欲しい。勿論、そうじゃなくてもお前が望むなら会うつもりだ。寂しい思いなんぞ絶対にさせねえから。……だから」
『うん』
「俺を、お前の男にしちゃくれねえか。……俺の隣に、居てくれねえか、ずっと」
『ず、ずっと』
「ずっと」
最早思考回路はショート寸前である。俺ァ今何言ってんだとか、言っちまっただとか。色んな思考が頭を過ぎって逃げ出したくなるのを必死に歯を噛み締めて耐える。
『……十希夫くん』
「ん」
『わ、私。こんなんなのに、良いの』
「お前だから良いんだよ」
『ズボラだし、ガサツだし。お洒落も全然だし』
「知ってらァな」
『は?嘘でもそのままで可愛いよとか言えや』
「解りきってる事言う程余裕がねえんだよ」
『恥ずかしい事言わないで』
「うるせえな」
『料理とかも出来ないよ、刃物、まだダメだから』
「気にしねえよ。治してえなら協力する、ダメならそのままでいい」
『……十希夫くんの隣に、居ていいの?』
「あぁ、居て欲しい」
『……そっかぁ』
名前は少し黙って水槽を眺めた。ふわりと腹を見せて泳いだエイの鼻がにっこりこっちに微笑みかけていた。
『とっきー』
「、ん?」
『春、またお花見行こうよ。紅葉も、冬の動物園も。あ、またあの動物園行こう、今度は遊園地リベンジね』
「……」
『い。一緒に、居てくれるんでしょ、ずっと』
声があまりに泣きそうだから思わず顔を見遣る。名前の顔は色んな感情でくしゃりと歪んでいる。十希夫は少しぽかんとして、自分も名前と同じようにくしゃりと顔を歪ませてそっと肩を引き寄せたのだった。
二人でゆっくり水槽を眺める。ねえ見て鮫。デカイな。言葉数は少ないけれど、二人の視線は交わらないけれど、その目に浮かぶのは随分と暖かい色で、燃えるような、と言うには温く、氷のようなと言うには熱すぎる、不思議な色であった。
「少し休むか」
『うん。なんか飲む?』
「買いに行こうか」
『私ねえ今ミルクティーの気分』
「たまにカフェオレでも飲むかね」
『珍しい、いつもブラックなのに』
「気分だよ」
『カフェオレね私コーヒーの匂い消さない良いやつ知ってるよ』
「おー、教えてくれよ」
『ただし舌は私基準ね』
「……もうちょい甘さ控えめで頼むわ」
『冗談だよ』
二人して自販機で飲み物を買ってそこらに置いてある椅子の一つに座る。目の前でイワシの大群がぐるぐると渦をまいているのを凄いね~なんて気の抜けた声を出しながら名前はミルクティーに口をつけた。
「美味そう~なんてのは言わねえのな?」
『捌いてたら言うけど言うより食った方が早くない?』
「ハハ、お前美味そうな顔で飯食うしな。解りやすい」
『喧しくない?』
「はいはい」
『とっきーももう卒業だね』
「そうだな」
『しばらくは仕事仕事でしょ』
「そうだな」
『……』
「なんだ、寂しいとでも?」
そう言うと名前は黙っちまった。寂しいなんて、別にいつも十希夫と会ってる訳じゃねえってのに。周りにゃ幼馴染達も相棒達も居るのだから、そんな事ある訳ねえのに何故か言葉に詰まって視線を下げる。それを見て十希夫はいつものように首筋をカリカリと掻いた。
「名前」
『、なに』
「あのよ、あー……」
この間のように勢いに身を任せている訳でもない状態で十希夫は頭がぐるぐると回る錯覚に襲われた。言ってもし関係が変わったら。いや、関係を変えたくて言うのだけど。もし疎遠になったら?
ンでも、それでも。
「なぁ、名前。俺ァ、俺が卒業しても、お前が卒業しても、仕事で忙しくても一緒に居てえよ」
『……』
「出来りゃァ、お前にも同じ気持ちで居て欲しい。勿論、そうじゃなくてもお前が望むなら会うつもりだ。寂しい思いなんぞ絶対にさせねえから。……だから」
『うん』
「俺を、お前の男にしちゃくれねえか。……俺の隣に、居てくれねえか、ずっと」
『ず、ずっと』
「ずっと」
最早思考回路はショート寸前である。俺ァ今何言ってんだとか、言っちまっただとか。色んな思考が頭を過ぎって逃げ出したくなるのを必死に歯を噛み締めて耐える。
『……十希夫くん』
「ん」
『わ、私。こんなんなのに、良いの』
「お前だから良いんだよ」
『ズボラだし、ガサツだし。お洒落も全然だし』
「知ってらァな」
『は?嘘でもそのままで可愛いよとか言えや』
「解りきってる事言う程余裕がねえんだよ」
『恥ずかしい事言わないで』
「うるせえな」
『料理とかも出来ないよ、刃物、まだダメだから』
「気にしねえよ。治してえなら協力する、ダメならそのままでいい」
『……十希夫くんの隣に、居ていいの?』
「あぁ、居て欲しい」
『……そっかぁ』
名前は少し黙って水槽を眺めた。ふわりと腹を見せて泳いだエイの鼻がにっこりこっちに微笑みかけていた。
『とっきー』
「、ん?」
『春、またお花見行こうよ。紅葉も、冬の動物園も。あ、またあの動物園行こう、今度は遊園地リベンジね』
「……」
『い。一緒に、居てくれるんでしょ、ずっと』
声があまりに泣きそうだから思わず顔を見遣る。名前の顔は色んな感情でくしゃりと歪んでいる。十希夫は少しぽかんとして、自分も名前と同じようにくしゃりと顔を歪ませてそっと肩を引き寄せたのだった。