そのにじゅういち
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?
「……」
『あ待って?牛乳無くない?嘘あったわ』
「……」
『寿ちゃんブラックだよね?』
「……」
『OKデロデロに甘いコーヒー作ってやるわ』
「名前」
『なぁに』
「なんで、居る」
『は?私がお前の家に入るのに許可なんている????』
「名前」
『ま、いいから一緒に温かいの飲もうよ。冷えるよ、今日は』
「名前」
『ダメ?』
「……」
『良いよの顔ね、はいはい』
前にあったココアは飲みきってたってのに棚にゃ名前が良く飲む新しいココアが置いてあった。全く可愛い奴め、と嬉しい気持ちと裏腹に名前の顔は悲痛に歪んでいた。キリキリと胃が痛む。
天地と花の対決はもう明日に迫っている。その話はもう街中に広まっており、皆“護國神社”に向かうらしい。名前はそれを常磐連中や山田とタケから聞いた時くっ、と口を閉ざした。本当の場所は限られた人間だけが知っているらしい、名前は本当の場所は伝えずにお前等集まった連中が暫く動かないように見ててくれ、とだけ伝えた。二人は何かを察して仕方ねえなという顔で解ったよと笑ったのだった。
村田家では将五が少し複雑な顔でお前、天地と月島花のあれどこか知ってるのかと言ってきたから恐らく将五は拓海から教えられているようだ。
光政に行くの、と聞けば鼻で笑って「来て欲しくねえって顔してるくせに」と吐かれてしまった。否定しようとするととんでもねえ優しげな顔で目も笑わずに名前を呼ばれ、黙らされた。腹の立つ野郎だ、すぐ人の腹を読みやがる。
天地をどうにか出来るのは花だけど思いつつ、花に勝って欲しいと思いつつ。名前はそれでも天地に負けて欲しい訳じゃなかった。心の奥底でどこか天地が勝つんじゃねえかという気持ちがあった。名前から見た花と天地の実力は、それ程拮抗しているように見える。
それでも、天地は負けるだろう。あの太陽のような男に。名前は天地のそんな姿をそこらの奴等になんぞ見て欲しくなかった。大事な幼馴染の節目になるであろう戦いを、孤独で居ようとする男の闇が焼き尽くされる瞬間を、面白半分でなんか見て欲しくなかった。
『ん』
「……」
『これお茶請けのクッキー、作ったの』
「……そうか」
『この間の指食べてくれた?』
「食った」
『美味しかったでしょ、頑張ったんだから』
「名前」
『なぁに』
「お前も、そうなのか」
具体的な言葉を言わなくたって意味は解った。名前は開いた口を貝みてえに閉ざして、少ししてから困った風に笑う。
『私はいつだって将五と拓海と、寿の味方だよ』
「でも、お前は俺が負けると思ってるんだろ」
『……』
「名前」
『寿』
「……」
『ごめんね』
「お前も、同じなんだろ」
『それは寿ちゃんが一番知ってるんじゃないの』
「……出てけよ」
『寿ちゃんが馬鹿する時以外はいつだって』
「出てけって」
『私は寿と手を繋いでたでしょ』
ここから出ていけ、二度と来るなと。そう叫びたかった。喉は掠れて息さえままならねえ天地の手を名前は取って、振り払おうとする前に小さい頃みてえにその手を握った。
「お、おれは」
『うん』
「負けねえ。つ、月島花には、絶対に」
『うん』
「なんで、……なんで」
『寿ちゃん、ずっと私の味方だったから』
「は」
『私も、ずっと寿ちゃんの味方で居るよ。うちら、小さい頃から一緒でしょう』
天地の目が見開いて空いた手を名前に伸ばして……辞めた。手を降ろして、俯いて……もう、遅いから帰れと力無く言った。
最後に握った手にきゅっと力を入れて大人しく名前は天地の家から出た。村田家に入って、おかえりと言った十三にただいまの声も出せずに抱き着いて泣いた。ただ手を差し伸べるだけ差し伸べて、握るだけであった自分への怒りと後悔と、天地への罪悪感で言葉もまともに発せなかった。十三はギョッとして、少し考えてから名前の背中を摩ったのだった。
冬のなり始め、急激に風が冷たくなって肌に突き刺さる日。鈍い女が気付かぬうちに一人の愚かな男の初恋が終わった。
「……」
『あ待って?牛乳無くない?嘘あったわ』
「……」
『寿ちゃんブラックだよね?』
「……」
『OKデロデロに甘いコーヒー作ってやるわ』
「名前」
『なぁに』
「なんで、居る」
『は?私がお前の家に入るのに許可なんている????』
「名前」
『ま、いいから一緒に温かいの飲もうよ。冷えるよ、今日は』
「名前」
『ダメ?』
「……」
『良いよの顔ね、はいはい』
前にあったココアは飲みきってたってのに棚にゃ名前が良く飲む新しいココアが置いてあった。全く可愛い奴め、と嬉しい気持ちと裏腹に名前の顔は悲痛に歪んでいた。キリキリと胃が痛む。
天地と花の対決はもう明日に迫っている。その話はもう街中に広まっており、皆“護國神社”に向かうらしい。名前はそれを常磐連中や山田とタケから聞いた時くっ、と口を閉ざした。本当の場所は限られた人間だけが知っているらしい、名前は本当の場所は伝えずにお前等集まった連中が暫く動かないように見ててくれ、とだけ伝えた。二人は何かを察して仕方ねえなという顔で解ったよと笑ったのだった。
村田家では将五が少し複雑な顔でお前、天地と月島花のあれどこか知ってるのかと言ってきたから恐らく将五は拓海から教えられているようだ。
光政に行くの、と聞けば鼻で笑って「来て欲しくねえって顔してるくせに」と吐かれてしまった。否定しようとするととんでもねえ優しげな顔で目も笑わずに名前を呼ばれ、黙らされた。腹の立つ野郎だ、すぐ人の腹を読みやがる。
天地をどうにか出来るのは花だけど思いつつ、花に勝って欲しいと思いつつ。名前はそれでも天地に負けて欲しい訳じゃなかった。心の奥底でどこか天地が勝つんじゃねえかという気持ちがあった。名前から見た花と天地の実力は、それ程拮抗しているように見える。
それでも、天地は負けるだろう。あの太陽のような男に。名前は天地のそんな姿をそこらの奴等になんぞ見て欲しくなかった。大事な幼馴染の節目になるであろう戦いを、孤独で居ようとする男の闇が焼き尽くされる瞬間を、面白半分でなんか見て欲しくなかった。
『ん』
「……」
『これお茶請けのクッキー、作ったの』
「……そうか」
『この間の指食べてくれた?』
「食った」
『美味しかったでしょ、頑張ったんだから』
「名前」
『なぁに』
「お前も、そうなのか」
具体的な言葉を言わなくたって意味は解った。名前は開いた口を貝みてえに閉ざして、少ししてから困った風に笑う。
『私はいつだって将五と拓海と、寿の味方だよ』
「でも、お前は俺が負けると思ってるんだろ」
『……』
「名前」
『寿』
「……」
『ごめんね』
「お前も、同じなんだろ」
『それは寿ちゃんが一番知ってるんじゃないの』
「……出てけよ」
『寿ちゃんが馬鹿する時以外はいつだって』
「出てけって」
『私は寿と手を繋いでたでしょ』
ここから出ていけ、二度と来るなと。そう叫びたかった。喉は掠れて息さえままならねえ天地の手を名前は取って、振り払おうとする前に小さい頃みてえにその手を握った。
「お、おれは」
『うん』
「負けねえ。つ、月島花には、絶対に」
『うん』
「なんで、……なんで」
『寿ちゃん、ずっと私の味方だったから』
「は」
『私も、ずっと寿ちゃんの味方で居るよ。うちら、小さい頃から一緒でしょう』
天地の目が見開いて空いた手を名前に伸ばして……辞めた。手を降ろして、俯いて……もう、遅いから帰れと力無く言った。
最後に握った手にきゅっと力を入れて大人しく名前は天地の家から出た。村田家に入って、おかえりと言った十三にただいまの声も出せずに抱き着いて泣いた。ただ手を差し伸べるだけ差し伸べて、握るだけであった自分への怒りと後悔と、天地への罪悪感で言葉もまともに発せなかった。十三はギョッとして、少し考えてから名前の背中を摩ったのだった。
冬のなり始め、急激に風が冷たくなって肌に突き刺さる日。鈍い女が気付かぬうちに一人の愚かな男の初恋が終わった。