いちねんせい し!
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名前の家に行かなくて三日目になった。毎日行くわけでないけど、名前から『来ないで』と言われるのは初めてだった。何かあったのかと問えば返事は来ない。今日も朝に『来ないで』と来ていて、訳を話せと言っても返ってこねえし電話も出ねえ。こんな事は初めてだった。
来ないでって言われたら行く必要もないし、別に行くのは義務じゃない。なのに天地の足は英明に向かっていた。女の通う英明は比較的大人しめだけど荒くれ連中はいない訳では無い。地盤も固まってない天地が一人で校門で待ってると本当は絶対なんやかんや言われるけれど、天地は何回も名前を迎えに来ていたので「あ~またか」「今日も赤ちゃん(名前)の迎え?」「パパさんお疲れ!飴食うか?」と要らぬ気遣いをされる。
校門のとこで待っていると「あれ苗字ちゃんの友ピじゃん」だのと聞こえてきた。名前のクラスメイトの連中だった。天地はそちらに向き直ってアイツは、と言うとクラスメイト達は顔を見合せた。
「苗字、昨日から学校来てないよ」
「は?」
「連絡取れてないけど、友ピは?」
そう言われて天地はすぐ振り返って歩いていっちまった。比較的早足。クラスメイト達はまた顔を見合せて「保護者に連絡なしだったんだね」「めちゃくちゃ顔キレてたじゃん」なんて話しながら帰って行った。
名前に電話する。出ない。メッセージもそう言えば来ないでと向こうから来るまでは既読がつかない。眉間に皺を寄せながら名前の家のインターホンを押す。セキュリティもクソもねえアパートなもんだからこうなると出てくるしかない。
出てこない。居ないのか?と思うと小さく中から『はい』と聞こえた。即座にドアの取っ手を掴む。いつも通り、鍵は開いていた。
『……天地くん?』
名前の腫れた右眼は見えていないようで、頬には色濃い青あざがあった。ひゅ、と息を呑んで天地の目が徐々に開かれていく。名前が無駄だってのに家の奥に逃げ込むように走るから、とりあえず上がって鍵を閉めた。家の中に逃げたって意味ねえってのに名前は寝室に逃げ込んで、とんでもねえ顔で迫る天地にぬいぐるみを盾にしながら待って、としか言えなかった。天地は酷く冷たい顔のまま名前の目の前で屈む。
「誰にやられた」
いっそ冷静に思える程の冷たい声が名前を突き刺した。あ、と息を漏らして、俯いた。だけど天地はそれを許さずに顔を掴んで上を向かせる。
「いつ」
『あ、あまち、』
「誰に、やられた」
『天地くん、』
「言え」
名前は黙っちまった。天地のこんな顔見た事ないので。少し怖くてふるりと震えるとチ、と舌を打って天地が手を離す。
『し、』
「……」
『しら、ないひと』
「知らない人?」
『うん』
「家に入られてか?」
今度こそ名前は涙目になっちまった。天地の目からしたら家に入った瞬間からおかしい事くらい解っていた。テーブルに置いたビール缶、投げ捨てられたリモコン、灰がぶちまけられた灰皿。壊れたゴミ箱、この前までなかったテーブルに付いた傷。
この女が警戒心皆無なのは知っていたので天地はずっと口酸っぱく「簡単に家教えるな」だの「密室で二人になるな」だのと教えてきた。まだ完全では無くとも天地に酷く懐いた女がわざわざ破るとは思えない。
なら誰がこの家に入ったのか。元々家を知っていて、入れざるを得なかった人間は?
「父親か?」
ピシャリであった。あの日、家に帰った名前を待っていたのは新しい嫁と再婚して東京に居る筈の父親だった。
「今日も?」
『……今日の朝帰った』
「二日居たんだな?」
『……』
「こっちの傷は新しいが、この分だと連続で殴られたな」
『……』
「なんで呼ばなかった、お前一人くらい、」
『天地くん』
「あ?」
『天地くん゛』
「は?」
『なんでおこるの゛』
「は??」
び!と名前はとうとう泣き出しちまった。天地が一瞬固まって、なにに泣いてるんだと言えば天地が自分に怒ってるのだと、だから怖いと。違うわ馬鹿野郎。
お前に怒ってるわけじゃねー、と言っても泣き止まないのでクソデカい溜め息を吐いて抱き締める。背中をぽんぽん叩くと徐々に泣きじゃくる声も小さくなってきた。そのまま落ち着くまで抱き締めて、傷の手当てに入るのだった。
言えるわけが無い、この顔の怖い友人に父親にされた事なんか。天地だからでなく、人に言える事では無かった。普通に恥なので。
名前の家に行かなくて三日目になった。毎日行くわけでないけど、名前から『来ないで』と言われるのは初めてだった。何かあったのかと問えば返事は来ない。今日も朝に『来ないで』と来ていて、訳を話せと言っても返ってこねえし電話も出ねえ。こんな事は初めてだった。
来ないでって言われたら行く必要もないし、別に行くのは義務じゃない。なのに天地の足は英明に向かっていた。女の通う英明は比較的大人しめだけど荒くれ連中はいない訳では無い。地盤も固まってない天地が一人で校門で待ってると本当は絶対なんやかんや言われるけれど、天地は何回も名前を迎えに来ていたので「あ~またか」「今日も赤ちゃん(名前)の迎え?」「パパさんお疲れ!飴食うか?」と要らぬ気遣いをされる。
校門のとこで待っていると「あれ苗字ちゃんの友ピじゃん」だのと聞こえてきた。名前のクラスメイトの連中だった。天地はそちらに向き直ってアイツは、と言うとクラスメイト達は顔を見合せた。
「苗字、昨日から学校来てないよ」
「は?」
「連絡取れてないけど、友ピは?」
そう言われて天地はすぐ振り返って歩いていっちまった。比較的早足。クラスメイト達はまた顔を見合せて「保護者に連絡なしだったんだね」「めちゃくちゃ顔キレてたじゃん」なんて話しながら帰って行った。
名前に電話する。出ない。メッセージもそう言えば来ないでと向こうから来るまでは既読がつかない。眉間に皺を寄せながら名前の家のインターホンを押す。セキュリティもクソもねえアパートなもんだからこうなると出てくるしかない。
出てこない。居ないのか?と思うと小さく中から『はい』と聞こえた。即座にドアの取っ手を掴む。いつも通り、鍵は開いていた。
『……天地くん?』
名前の腫れた右眼は見えていないようで、頬には色濃い青あざがあった。ひゅ、と息を呑んで天地の目が徐々に開かれていく。名前が無駄だってのに家の奥に逃げ込むように走るから、とりあえず上がって鍵を閉めた。家の中に逃げたって意味ねえってのに名前は寝室に逃げ込んで、とんでもねえ顔で迫る天地にぬいぐるみを盾にしながら待って、としか言えなかった。天地は酷く冷たい顔のまま名前の目の前で屈む。
「誰にやられた」
いっそ冷静に思える程の冷たい声が名前を突き刺した。あ、と息を漏らして、俯いた。だけど天地はそれを許さずに顔を掴んで上を向かせる。
「いつ」
『あ、あまち、』
「誰に、やられた」
『天地くん、』
「言え」
名前は黙っちまった。天地のこんな顔見た事ないので。少し怖くてふるりと震えるとチ、と舌を打って天地が手を離す。
『し、』
「……」
『しら、ないひと』
「知らない人?」
『うん』
「家に入られてか?」
今度こそ名前は涙目になっちまった。天地の目からしたら家に入った瞬間からおかしい事くらい解っていた。テーブルに置いたビール缶、投げ捨てられたリモコン、灰がぶちまけられた灰皿。壊れたゴミ箱、この前までなかったテーブルに付いた傷。
この女が警戒心皆無なのは知っていたので天地はずっと口酸っぱく「簡単に家教えるな」だの「密室で二人になるな」だのと教えてきた。まだ完全では無くとも天地に酷く懐いた女がわざわざ破るとは思えない。
なら誰がこの家に入ったのか。元々家を知っていて、入れざるを得なかった人間は?
「父親か?」
ピシャリであった。あの日、家に帰った名前を待っていたのは新しい嫁と再婚して東京に居る筈の父親だった。
「今日も?」
『……今日の朝帰った』
「二日居たんだな?」
『……』
「こっちの傷は新しいが、この分だと連続で殴られたな」
『……』
「なんで呼ばなかった、お前一人くらい、」
『天地くん』
「あ?」
『天地くん゛』
「は?」
『なんでおこるの゛』
「は??」
び!と名前はとうとう泣き出しちまった。天地が一瞬固まって、なにに泣いてるんだと言えば天地が自分に怒ってるのだと、だから怖いと。違うわ馬鹿野郎。
お前に怒ってるわけじゃねー、と言っても泣き止まないのでクソデカい溜め息を吐いて抱き締める。背中をぽんぽん叩くと徐々に泣きじゃくる声も小さくなってきた。そのまま落ち着くまで抱き締めて、傷の手当てに入るのだった。
言えるわけが無い、この顔の怖い友人に父親にされた事なんか。天地だからでなく、人に言える事では無かった。普通に恥なので。