笑顔の仮面
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取り引き相手の女を酔わそうとしたが、ほろ酔い程度で終わっちまった。
上手い事言いくるめる予定だったのに、今日はどうしても意識がはっきりした状態で俺に抱かれたいとかほざき出しやがって…チッ。
こうなりゃホテルで睡眠薬でも盛ってやろうとレストランを出た瞬間、一瞬の隙をついて女にキスされた。
イラつきながら身体を引き離した直後目に飛び込ンできたのは、こちらを見て固まるカレン…なンでここに!?
直ぐ様視線を逸らしたカレンは、俺に傘を持ってきたと言う事を告げた後ゆっくりと顔を上げた。
…あの、何の感情も読み取れない“笑顔”を貼り付けて。
「おい、」
『あぁ、丁度雨が降ってきましたね。』
誤解を解こうと口を開くが、それに合わせるかのようにカレンも言葉を被せ『どうぞ』と俺に傘を渡してきた。
『貴女様にはこちらを…私の傘で申し訳無いのですが。』
「え?」
『濡れてお身体に障りましたら大変ですから。』
取り引き相手の女に自分の傘を渡したカレンは当然ながら傘無しだ。
「お前、」
『私なら大丈夫です。走れば船まですぐですし。それに…』
そこで一旦言葉を切ったカレンだが、顔は相変わらず綺麗な“作り笑い”のままで。
『…私、に何かありましても…代わりはいくらでもいますから。』
「!?」
カレンのその言葉に、少しだがイラつく。
…あンだけ好きだって言ってンのに、こいつには全然伝わって無かったって事か…?
なンか、俺ばっかり好きみてェじゃねェか。
「へぇ、出来たメイドじゃない。きちんと自分の身分をわきまえてる。」
『…それでは、これ以上お邪魔してしまっては申し訳無いので…。』
「………。」
口を開けばイラつきからカレンが傷付くような事を言っちまいそうで、俺は黙ってカレンを見送る。
『…目の前で走り去ると言うご無礼をお許し下さいませ。』
「別にいいわよ。傘、ありがたくいただくわ。」
『いえ…それでは失礼致します、“ドンキホーテ様”』
「!?」
…昔(つっても一月も経ってねェが)の呼び方に戻ったあいつに、心臓がドクンと嫌な音を立てた。
バシャバシャと水を跳ねさせながら走って行くその背中を見つめながら、小さく溜め息をつく。
…あの作り笑いに隠された感情はなんだ?
怒り?悲しみ?軽蔑?
初めて会った時以来見ていなかったあの“笑顔”と言う名の“仮面”。
「ねぇ、ドフラミンゴ…」
「…気安く呼ぶンじゃねェよ。」
「…なんですって?」
「お前との取り引きはこれっきりにさせてもらうぜ。あァ、なんなら今回の取り引きも白紙にしたっていい。」
「な!?」
「フフフ…俺はさっさと帰って、あの馬鹿に俺の愛の重さをじっくりと教えてやンなきゃならねェからなァ。」
唖然とする女に構う事無く、傘をさして船への道を歩く。
…取り引きが白紙に戻れば今までの時間は無駄になるが…ンな事よりも、カレンにあいつの代わりなンていねェって事を教え込む方が大事だ。
…元はと言えばキスされた俺が悪ぃンだろうけど。つっても、たかがキスだが。
まァ、こういう事に慣れてねェカレンからしたら大事か。
「…ヤキモチ妬かれるのも悪かねェが…やっぱあいつは笑ってる方がいい。」
…一人呟いた言葉は雨音に掻き消された。
笑顔の仮面
(……雨、強くなってきやがったな…あいつ、身体大丈夫か?)