寒いのは、
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…酒を買ってこい。」
『はい、わかりました!』
執事長の言葉に笑顔で返し、私は裏口から屋敷を出る。
さっきのような冷たい視線にも、態度にももう慣れてしまった。
…この家の主人と不倫相手との子どもである私は、昔からこの扱いが当たり前だったから。
本妻が子どもが出来にくい体質であった為私は一応跡取りとして屋敷に引き取られたが、当然こんな私を本妻を始めとした屋敷の人間達は良く思わなかった。
引き取られてから数年後、本妻に男の子が産まれた瞬間に私は“跡取り”から“召し使い”へと変わった。
本妻…奥様としてはすぐにでも私を殺してしまいたかったみたいだけれど、世間の目を気にして思い止まってくれたらしい。
こんな私にも屋敷の主人の血が流れているから…。
奥様は、私が少しでも幸せになるのが許せないようだ。
商船等の船が島に来ると、私が船に乗り込んで島を出て幸せになるんじゃないか、と疑って商船がいなくなるまで私を監禁する。
…滅多に来ないけど、海賊船の時には監禁されない。(むしろ海賊に玩具にされてしまえ、とまで言われた。)
以前、私に優しくしてくれた花屋のご夫婦は店を畳み島を出て行かされる羽目になった。
「あんたなんかに優しくするんじゃなかった。」
そう、私を睨みつけながら言った花屋のおばさんの言葉が忘れられない。
この事件以来、必要以上に私には誰も話し掛けなくなった。私も誰にも話し掛けなくなった。
私は独りで良い。
私が独りでいれば皆幸せでいられる。
…いっその事、命を絶ってしまおうかとも考えた。けどいざナイフを握ると恐怖が身体を支配して動けなくなる。
生に執着する自分に嫌気がさしながらも、私の顔は笑っている。
…いつからだろう、笑う事しか出来なくなったのは…。
怒れば“生意気だ”と殴られる。
泣けば“うるさい”と罵られる。
…でも笑えば“何をしても笑っていて気持ちが悪い”と相手は遠ざかる。
そう気付いた時には、私は笑う以外の感情の出し方がわからなくなってしまっていた。
…大好きだった花屋のおばさんに睨まれた時も、笑っていた。
きっと私の“心”は壊れてしまっているのだ。粉々に砕け散って、どうにも元に戻せない。
自分が可哀相だとは思わない。
こんな存在の私に、住む場所があって、食べるものがあるだけでも十分だと思うから。
…だから大丈夫、私は“可哀相”なんかじゃない。
寒いのは身体か心か。
(…今日は雪、止まなさそう。)