大丈夫だから
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『…ん…』
目を開けると、そこは真っ暗な部屋だった。
どうやら逃げられないように手足を縛られているようで、動かすと縄が食い込んで擦れて痛い。これでは身体を起こす事も出来ず…。
……私、とうとう捕まったんだ…。
絶望にも似た感情で脱力しきっていると、段々とはっきりしてくる視界の端で入り口らしきドアが開いた。
「…目が覚めたか。」
逆光が眩しくて顔をしかめると、入ってきた人物は笑いながら近づいてきて…目の前まで来てやっと、その男に見覚えがある事に気付く。
「この間は手荒い歓迎をどうも。」
…あの日、公園で私が吹き飛ばした男だ。
この人はローの事を馬鹿にしたし、上から目線で高圧的で…好きになれない。
「いやぁ、まさか君の力があれ程とは思わなかったよ。」
『…。』
「なんでそんな力があるのか、心当たりはあるかい?」
『…。』
「…諦めて口を開いてくれないかな。私も気が長い方ではなくてね。」
『…。』
「………チッ……」
一切口を開かない私にイラついて舌打ちをする男。
そして次の瞬間、私の髪を掴んで無理矢理顔を上げさせてきた。
『っ…』
「どうせお前が喋らなかった所で、隅から隅まで調べられるんだ。さっさと口を割った方が賢明だと思うがね。」
痛みは少ない方がいいだろう?と続ける男を睨みつける。
…こんな扱いされて、素直に口を開くと思うなよ。
「本当に可愛いげが無い女だな…あぁでも、」
髪を掴まれていた手が離され、代わりに顎に指が添えられる。
「顔は私の好みだ。」
『…っ。』
「お前の能力は子どもに遺伝するのかどうかの実験も予定されている…なんなら私が「父親」になってやろうか?」
スーッ、と空いている手の指で頬を撫でられ、全身の血の気が引くのがわかった。
「くくく…いい顔出来るじゃ無いか…。」
『…!や…っ』
頬を撫でていた指がゆっくりと下がり、首筋に触れる。怖くて震える身体をどうにかする術を私は知らない。
「逃げようなんて無駄な事はもう考えるなよ。こっちだってお前が逃げていた間、ただ闇雲に探してただけじゃないんだ。」
そこまで言うと男は私の耳元へと顔を近付けた。
「…お前、手が使えないと風を操れないんだろう?」
『!!!』
「その反応は図星って所か。」
『な、んで…』
「お前の父親から話を聞いたりして能力の過去の使用状況を徹底的に分析したんだ。…私が飛ばされた時も映像に残してな。」
『!!』
「挑発に乗ってくれて助かったよ。おかげで良いデータがとれた。」
嘲るように笑う男に悔しくなる。
…この男の言う通り、私は手が使えないと上手く風を操れない。拳銃で言う銃身の役割を手が担うからだ。
「…残念だったな?」
私から手を離した男は近くに落ちていたローの帽子を拾い上げ、私に被せる。
「この帽子、あの男が被っていた物だろう?…今お前がいるここは、国家機密の研究所だ。一般人は入る事はおろか見つける事も出来ない。」
『…。』
「しかも、だ。後1時間で飛行機の準備が整う。そしたらお前はそれに乗せられアメリカに行く事になる。」
『…。』
「そうしたら更に助けに来る事は不可能だろうなぁ?」
はははは、と高笑いする男を余所に、帽子の中で私はローの事を考えていた。
…ちゃんと帰れたのかな?なんだかんだ悪態つきながらも優しい人だから、もしかしたら私の事を探してくれているかもしれない。
私なら大丈夫だから、早く船員さんの所に戻ってあげてね。どうせいつかはこうなる運命だったんだから。
きちんとお見送り出来なくてごめんなさい。
……貴方の事が、大好きでした。
大丈夫だから
(どうか私の事は忘れて下さい。)
(…私は忘れられない、だろうけど…)