不器用な優しさ
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『はい、コーヒー。』
「…おう。」
あの後、一言も言葉を交わさずに帰宅した私達。
帰宅してすぐに準備したアイスコーヒーをローの前へ置き、彼の向かい側へと私も座った。
『…えっと…何から話せば良い?』
先程、あの力を見せる事になってしまい…私は今日、ローに全てを話す事を決めたのだ。
…そう決めたは良いが、何から話せば良いのかわからない。まだ怖いのだって事実だ。
「…何からでもどこからでも良い。どんなに話が目茶苦茶でも最後まで聞いてやる。」
『…ロー…』
「お前の話を頭の中で整理するくらい、余裕だ。」
ニヤリと自信満々に笑うローに、緊張していた気分が少し落ち着く。
『……あの…あのね、まず…その…私の持ってる“力”についてなんだけど……』
一つ深呼吸をしてから私は話を切り出した。
生まれつき私が持っている“力”の事。
それが原因で両親から嫌われている事。
その両親に研究機関に売られ、それから逃げ続けている事。
…自分でも下手な説明だったと思う。でもローはただ静かに聞いてくれた。
『…以上が、私の秘密にしていた事全部。』
「……そうか。」
『ローの世界で言う“悪魔の実”を食べたワケでも無いのにこんな力があるなんて…気持ち悪いって自分でもわかってる。』
「…はぁ…」
『っ…!』
溜め息をついたローに思わず身体が跳ねる。
…怖い…気持ち悪がられたら嫌だ…
…でも、こんな力…普通に考えたら気味が悪いに決まってる。
ぎゅうっと膝の上で拳を握る。怖くてローの顔が見れない。
カラン、とアイスコーヒーの氷が鳴った。
「…ったく、お前は…」
『…。』
ローが口を開き、握りしめる手に力が入る。
ストン
『え…?』
「…握りすぎだ馬鹿。指白くなってんじゃねぇか。」
向かい側から私の隣へと移動してきたローは、優しく私の指先を解いていく。
「俺はお前を気持ち悪ぃとは思わねぇ。」
『…え?』
「つうか向こうの世界じゃお前なんか可愛いもんだ。身体が煙になる奴や…ゴム人間もいたな。」
『…。』
「お前は“両親”のイメージに囚われ過ぎなんだよ。」
『…っ…』
「俺はお前の父親とは違う。今までの話を聞いた所で態度を変えるつもりも無い。…泣くな、馬鹿。」
『ご、ごめ…』
ローの一言一言が嬉しくて、頬を熱い物が流れる。止めようとしても止まらなくて、それでも胸の中は暖かかった。
「…この際だ。全部聞いてやるから、悩みだろうが不安だろうが言ってみろ。」
俺の気が変わらない内にな、と言ってくれたローに、私の心にずっとあったいくつもの枷が外れる音がする。
『…怖、かった…』
「そうか。」
『わ…たし、このまま、ずっと…人から、気味悪がられながら、生きていくんだ、って…』
「…それで?」
『…居場所なんて、無いんだって…』
ポツリポツリと胸にあった不安を口にする。視界が再び涙で滲むけれど、それでも私は続けた。
『…ロー、にも、嫌われるんじゃ、ないかって…』
「…っくく…お前の考え過ぎだったな。」
『…うん、違った。』
…今までは、この不安を口にしたら現実になるような気がして言えなかった。
でもローは“私”のことを受け止めてくれる。大丈夫だ、って示してくれる。
『…ありがとう。』
そう言えば、ローは一瞬驚いた後いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「…やっと笑ったな。」
『え?』
「お前は笑ってるほうが良い。」
『!!』
頭をグシャッと撫でられ、再び涙腺が緩む。…笑え、って言われたばかりなのに…。
『…ごめん、ロー。』
「あ?」
『今日の私、涙腺壊れたみたい。』
「……チッ。」
『…わ!?』
急に腕を引かれ、ボスッと音を立てて辿り着いたのはローの胸で…そのまま背に腕が回される。
『ロ、ロー?あの、これは一体…』
「あ?うるせぇ。黙って泣いてろ。」
口は悪いのに、回された腕の力や温もりがとても優しくて…一瞬引っ込んだ涙が再び滲んできた。
『…ロー、本当にありがとう…』
涙声になってしまったけどそう呟けば微かに彼が笑う気配がして、また私の瞳からは涙が溢れる。
…静かに聞こえるローの心臓の音が心地好くて、気が付いたら私はそのまま眠ってしまっていた…。
不器用な優しさ
(…こんなに心が軽くなったのなんて生まれて初めてかもしれない。)