あなたを救う為に彼を殺す
大罪の悪魔の本部から抜け出し、サタナエルはベルフェゴールから貰った指示を思い返していた。
───負のエネルギーが溢れ出している
すぐにでも浄化に向かわないといけない状態ではないかと思う。
負のエネルギーに満ちてしまうと魔物の大量発生や環境汚染だけでなく、その地に足を踏み入れた生命にも危機を及ぼす。
凶暴化、または逆に生命を吸い取られ抜け殻と化すか……。
どちらにしても放置しておくのは得策ではなかった。
「…………」
レヴィアタンはずっと何かを考えるように黙り続けていたが、結論が浮かんだのか顔を上げサタナエルの腕を掴んだ。
「…………エル」
「良いんだよ、嫌なら嫌って言ってくれれば」
地図を見つめながら歩みを進めていたサタナエルだったが、立ち止まりゆっくりと振り返った。
「大丈夫だよ、私は大丈夫だから…………」
振り返ったサタナエルは困った笑みを浮かべていた。
レヴィアタンの掴んだ腕は簡単に折れてしまうように感じるくらいにか細い。
「俺はエルに無理をして欲しくないんだよ」
「聖女の仕事に負のエネルギーの浄化にって……エル、全然休めてないじゃないか…………!」
「………………」
サタナエルは俯くと再び視線を地図に写しながら呟いた。
(だって、こうでもしないと□□□□理由が□□ないじゃないか───)
その声は消え入りそうな声でレヴィアタンには全てを聞き取ることは出来なかった。
沈黙が続く。
そしてその沈黙を破る何者かがこちらへやって来ていた。全体に白い、という以外には初めはその人物の見分けがつかなかったが、輪郭がはっきりとわかる距離までやってきた頃にはレヴィアタンは驚きを隠せずにいた。
「!?!」
「…………エル?」
その白い人影は【少女】であるサタナエルが【男】として成長したらこのようになるんだろうと予想できるようなサタナエルそっくりの外見をしていた。
だが本来のサタナエルの髪の色は銀だ。その男は色が抜け落ちてしまったような、真っ白な長髪をしていた。
そして何より銀と空の瞳には生気が無く、まるで壊れかけの人形のようだと感じた。
「あんた…………一体…………?」
レヴィアタンがそう呟くと、白髪の男はレヴィアタンに気付き、手にしていた花があしらわれた大鎌を握りしめ、レヴィアタンに向かって飛んで来た。
レヴィアタンは表情を変えると握りしめていたサタナエルの腕を解放して、彼女を思い切り突き飛ばした。
「…………!?」
サタナエルは咄嗟のことで反応出来ず突き飛ばされた先で倒れ込んだ。
その後すぐにレヴィアタンに大鎌で襲いかかった男の刃を水の槍で受け止めると弾き返した。
男はとん、とん、とレヴィアタンと距離を取った。
「…………どういうつもりですか?」
「…………」
「狙いはサタナエル様ですか?」
「…………」
男はサタナエルとレヴィアタン両方に視線を移すと、最後にレヴィアタンへと視線を戻し、そして囁くような小さな声で呟いた。
「…………そうと言われたら…………そう」
「…………でも私が用があるのは貴殿。大罪の悪魔」
「…………分かった。あんた、俺を殺した後サタナエル様を拐うつもりじゃ…………」
「貴殿がいるとサタナエル【達】は幸せになれない」
「…………は?」
「だから全ての世界のレヴィアタンを殺せと【主様】から命を頂いた」
白髪の男は再び大鎌を握りしめると言い放った。
「だから私は主様の命に従い、全てのレヴィアタンを殺す。
サタナエルを不幸から逃れさせる為…………!」
───この人は何を言っているの?
私を解放するために、救う為に大切な人(レヴィア)を殺す?
嫌だ…………
嫌だ…………っ!!
「待って…………っ!」
サタナエルは叫ぶと、レヴィアタンの元へ駆け寄り彼の前で手を広げて立ち塞がった。
レヴィアタンはサタナエルが自分を庇おうと……守ろうとしていると知ると、取り乱したように静止の言葉をかける。
「エル!駄目だ!そこをどいて!」
「嫌……!」
「いやいやいやいやいや…………!だって、君にもしもの事があったら…………私…………っ!」
「……エル…………」
「…………どうして」
必死にレヴィアタンを守ろうとするサタナエルを見て白髪の男は首を傾げた。
「他のサタナエル達も最後まで抵抗していた…………。
どうして?その男が貴殿を不幸にしているのに」
「レヴィアに不幸にされたなんて…………思った事ないからだよ」
寧ろレヴィアは私に幸せを沢山運んでくれた。彼の隣で生きること、それが喜びであり……私の存在理由になった。
「貴殿もそうだったでしょう…………?」
───もう1人の私。
涙を零しながら白髪の男へ語りかけるサタナエルの最後の言葉……。
【もう1人のサタナエル】
その言葉を聞いてレヴィアタンは驚愕とともに納得がいく部分と行かない部分ができてきた。
まず納得いくのはその外見だ。ただの物真似では無い、サタナエル本人であると思わせる要素が彼には確かにあった。だからこそもう1人のサタナエルだと言われればそう思ってしまう理由にも納得がいく。
逆に納得がいかないのはなぜ【サタナエル】が自分を殺そうとしているか。その点だ。【主様】と読んだ何者かに何か洗脳のようなことをされているのか、それとも弱みを握られているのか。
そして何よりこの白いサタナエルはどこから来たのかという大きな謎もある。
だが相手がサタナエルなら説得出来るかもしれない───
そう思ったレヴィアタンは自分を庇ってくれた愛しいただ1人の肩に手を置くと白髪のサタナエルに言葉を続けた。
「確かにあんたの言う通り今の俺はエルを十分に幸せにできてないよ。いや、寧ろ不幸にした事もあるって思ってる」
「違う……違う……そんなこと……」
振り返り涙を流しながら違うと訴えるサタナエルに微笑み、優しく頭を撫でる。
「でも、俺はエルを幸せにしたいって気持ちはいつも持ってるし、これからも変わることは無い。あんたが俺がエルを不幸にする存在だって言うなら、そうじゃないって証明してみせる…………!」
「レ、ヴィア…………」
「…………」
白髪のサタナエルは2人の様子を見つめていたが暫くしてからポツリ、と呟いた。
「私も長い間、主様からの使命を全うしてきたけど…………その度私の心にヒビが入って、それがどんどん深くなっていくのを感じていた。」
「そしてここで役目を果たしたら私の心は砕け散って使命を終えるんだろう───」
白髪のサタナエルは空を仰ぐと、サタナエルとレヴィアタンへ視線を移した。
「一度役目を放棄することにする。無理だろうと思うけど貴殿がサタナエルを幸せにできると言うなら、それを証明して見せて」
「……でも」
「少しでも可能性はないと、そう判断した時は、次は無い。その時は貴殿を殺して、私は役目を終える」
「それでいいよ」
「エルは必ず救ってみせる。白髪のサタナエル、君もサタナエルだと言うなら君も救う」
「…………私は」
「私はサタナエルじゃない」
「サタナエルだったもの、サタナエルの抜け殻。言うなら…………」
───サタナエル・ロスト
白髪のサタナエル…………サタナロストはそう宣言した。
───負のエネルギーが溢れ出している
すぐにでも浄化に向かわないといけない状態ではないかと思う。
負のエネルギーに満ちてしまうと魔物の大量発生や環境汚染だけでなく、その地に足を踏み入れた生命にも危機を及ぼす。
凶暴化、または逆に生命を吸い取られ抜け殻と化すか……。
どちらにしても放置しておくのは得策ではなかった。
「…………」
レヴィアタンはずっと何かを考えるように黙り続けていたが、結論が浮かんだのか顔を上げサタナエルの腕を掴んだ。
「…………エル」
「良いんだよ、嫌なら嫌って言ってくれれば」
地図を見つめながら歩みを進めていたサタナエルだったが、立ち止まりゆっくりと振り返った。
「大丈夫だよ、私は大丈夫だから…………」
振り返ったサタナエルは困った笑みを浮かべていた。
レヴィアタンの掴んだ腕は簡単に折れてしまうように感じるくらいにか細い。
「俺はエルに無理をして欲しくないんだよ」
「聖女の仕事に負のエネルギーの浄化にって……エル、全然休めてないじゃないか…………!」
「………………」
サタナエルは俯くと再び視線を地図に写しながら呟いた。
(だって、こうでもしないと□□□□理由が□□ないじゃないか───)
その声は消え入りそうな声でレヴィアタンには全てを聞き取ることは出来なかった。
沈黙が続く。
そしてその沈黙を破る何者かがこちらへやって来ていた。全体に白い、という以外には初めはその人物の見分けがつかなかったが、輪郭がはっきりとわかる距離までやってきた頃にはレヴィアタンは驚きを隠せずにいた。
「!?!」
「…………エル?」
その白い人影は【少女】であるサタナエルが【男】として成長したらこのようになるんだろうと予想できるようなサタナエルそっくりの外見をしていた。
だが本来のサタナエルの髪の色は銀だ。その男は色が抜け落ちてしまったような、真っ白な長髪をしていた。
そして何より銀と空の瞳には生気が無く、まるで壊れかけの人形のようだと感じた。
「あんた…………一体…………?」
レヴィアタンがそう呟くと、白髪の男はレヴィアタンに気付き、手にしていた花があしらわれた大鎌を握りしめ、レヴィアタンに向かって飛んで来た。
レヴィアタンは表情を変えると握りしめていたサタナエルの腕を解放して、彼女を思い切り突き飛ばした。
「…………!?」
サタナエルは咄嗟のことで反応出来ず突き飛ばされた先で倒れ込んだ。
その後すぐにレヴィアタンに大鎌で襲いかかった男の刃を水の槍で受け止めると弾き返した。
男はとん、とん、とレヴィアタンと距離を取った。
「…………どういうつもりですか?」
「…………」
「狙いはサタナエル様ですか?」
「…………」
男はサタナエルとレヴィアタン両方に視線を移すと、最後にレヴィアタンへと視線を戻し、そして囁くような小さな声で呟いた。
「…………そうと言われたら…………そう」
「…………でも私が用があるのは貴殿。大罪の悪魔」
「…………分かった。あんた、俺を殺した後サタナエル様を拐うつもりじゃ…………」
「貴殿がいるとサタナエル【達】は幸せになれない」
「…………は?」
「だから全ての世界のレヴィアタンを殺せと【主様】から命を頂いた」
白髪の男は再び大鎌を握りしめると言い放った。
「だから私は主様の命に従い、全てのレヴィアタンを殺す。
サタナエルを不幸から逃れさせる為…………!」
───この人は何を言っているの?
私を解放するために、救う為に大切な人(レヴィア)を殺す?
嫌だ…………
嫌だ…………っ!!
「待って…………っ!」
サタナエルは叫ぶと、レヴィアタンの元へ駆け寄り彼の前で手を広げて立ち塞がった。
レヴィアタンはサタナエルが自分を庇おうと……守ろうとしていると知ると、取り乱したように静止の言葉をかける。
「エル!駄目だ!そこをどいて!」
「嫌……!」
「いやいやいやいやいや…………!だって、君にもしもの事があったら…………私…………っ!」
「……エル…………」
「…………どうして」
必死にレヴィアタンを守ろうとするサタナエルを見て白髪の男は首を傾げた。
「他のサタナエル達も最後まで抵抗していた…………。
どうして?その男が貴殿を不幸にしているのに」
「レヴィアに不幸にされたなんて…………思った事ないからだよ」
寧ろレヴィアは私に幸せを沢山運んでくれた。彼の隣で生きること、それが喜びであり……私の存在理由になった。
「貴殿もそうだったでしょう…………?」
───もう1人の私。
涙を零しながら白髪の男へ語りかけるサタナエルの最後の言葉……。
【もう1人のサタナエル】
その言葉を聞いてレヴィアタンは驚愕とともに納得がいく部分と行かない部分ができてきた。
まず納得いくのはその外見だ。ただの物真似では無い、サタナエル本人であると思わせる要素が彼には確かにあった。だからこそもう1人のサタナエルだと言われればそう思ってしまう理由にも納得がいく。
逆に納得がいかないのはなぜ【サタナエル】が自分を殺そうとしているか。その点だ。【主様】と読んだ何者かに何か洗脳のようなことをされているのか、それとも弱みを握られているのか。
そして何よりこの白いサタナエルはどこから来たのかという大きな謎もある。
だが相手がサタナエルなら説得出来るかもしれない───
そう思ったレヴィアタンは自分を庇ってくれた愛しいただ1人の肩に手を置くと白髪のサタナエルに言葉を続けた。
「確かにあんたの言う通り今の俺はエルを十分に幸せにできてないよ。いや、寧ろ不幸にした事もあるって思ってる」
「違う……違う……そんなこと……」
振り返り涙を流しながら違うと訴えるサタナエルに微笑み、優しく頭を撫でる。
「でも、俺はエルを幸せにしたいって気持ちはいつも持ってるし、これからも変わることは無い。あんたが俺がエルを不幸にする存在だって言うなら、そうじゃないって証明してみせる…………!」
「レ、ヴィア…………」
「…………」
白髪のサタナエルは2人の様子を見つめていたが暫くしてからポツリ、と呟いた。
「私も長い間、主様からの使命を全うしてきたけど…………その度私の心にヒビが入って、それがどんどん深くなっていくのを感じていた。」
「そしてここで役目を果たしたら私の心は砕け散って使命を終えるんだろう───」
白髪のサタナエルは空を仰ぐと、サタナエルとレヴィアタンへ視線を移した。
「一度役目を放棄することにする。無理だろうと思うけど貴殿がサタナエルを幸せにできると言うなら、それを証明して見せて」
「……でも」
「少しでも可能性はないと、そう判断した時は、次は無い。その時は貴殿を殺して、私は役目を終える」
「それでいいよ」
「エルは必ず救ってみせる。白髪のサタナエル、君もサタナエルだと言うなら君も救う」
「…………私は」
「私はサタナエルじゃない」
「サタナエルだったもの、サタナエルの抜け殻。言うなら…………」
───サタナエル・ロスト
白髪のサタナエル…………サタナロストはそう宣言した。
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