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サタナエルの聖女としての仕事が終わり、神殿の外に出ると外はすっかり暗くなっていた。

サタナエルはレヴィアタンと共に帰路につく。
自宅はボゴミール神殿のような大きなものではなく、控えめな大きさの一軒家だった。

まず初めにサタナエルが扉を開き、中へ入る。レヴィアタンも後へと続く。
家の中へ入ると小さなツインテールの白髪の少女がサタナエルに気が付きパッと顔を明るくさせた。


「おにぃさま!えるおにぃさま!」


白髪の少女は喜びの声を上げるとソファーから飛び降り、サタナエルの元へ飛び込んだ。
サタナエルも少女を受け止める。


「える【おにぃさま】おかえりなさい、です!
きょうのおしごとはおしまい、ですか?」

「ただいまナキア。
うん、今終わったところだよ」

「おにぃさまはえらい、えらいです。
なきあがおにぃさまをなでなでしてあげます」

「ありがとうナキア」


ナキアは手を伸ばしてサタナエルの頭をニコニコと撫でる。サタナエルもそんなナキアに自然と笑みがこぼれる。


そんな中、わなわなと身体を震わせている者が1人。

サタナエルの後から家の中に入ったレヴィアタンだ。

レヴィアタンは扉を閉めると、頭をガシガシと掻きむしりながらドカドカと部屋の中へ入った。


「ああああああっ!
何なの!何なんだよあいつらッッ!!!」


レヴィアタンは上着を乱暴に脱ぐと先程までナキアが座っていたソファーに投げ捨てる。


「どいつもこいつも【エル】に馴れ馴れしくしやがって!!
エルは俺のエルなのに!!」


ボゴミール神殿にいた時と明らかにサタナエルに対する態度が違うレヴィアタンをサタナエルとナキアはじっと見つめる。

そしてサタナエルが困ったように宥める。


「まぁまぁ【レヴィア】落ち着いて」

「これが落ち着いてられる!?
俺の方がエルのこと好きなのに!ただの信者がエルの全部知ってるみたいな顔して!!!」

「す……す、き……」

「何?どうしたのエル?
……あっ!ナキア!いつまでエルにくっついてるつもり!?」


レヴィアタンの「好き」という言葉に顔を真っ赤にして俯くサタナエル。


サタナエルとレヴィアタンは所謂【恋人関係】と呼ばれるものだ。しかし聖女であるサタナエルの信者からしたら「聖女様に馴れ馴れしい不届き者」は非難の対象だ。
その対策として【聖女の護衛役】を表向きでは演じている。


「?れーおにぃちゃんもなでなでしてほしいですか?」

「はぁ?ナキアにされても嬉しくともなんともないんだけど」


それより早く離れろと言わんばかりの勢いでナキアをサタナエルから引き剥がした。


「レヴィア、そんなに心配しなくても……私、があ……あの……」

「愛してる、のは……レヴィアだけだよ……」

「本当!?本当に俺だけ!?他のやつは何とも思ってない!?」


レヴィアタンは恥ずかしそうに俯くサタナエルの両手を勢い良くとり身体を乗り出す。

しかし、はっと我に返ったのか気まずそうに握っていた両手を離し目を逸らす。


「あ、ごめん……」

「……、…………」


サタナエルはどこか遠くを見つめるように、どこか寂しそうにレヴィアタンに視線を映した。


───ああ、まただ。


レヴィア……彼は何処か、私と距離を置こうとしている。

その理由も何となくだけれど分かっている。
レヴィアが私に隠している何かがあるのも何となくだけれど分かる。


───エル。


───エルはいい子だね…………。


───…………によく似て…………。


私の中であの声が反響する。


私もレヴィアに隠していることがある。


でもこれは何がなんでも隠し通さないといけない。


だって、【これ】を知られたら…………。


「……ル?」


「エル?」


心配そうに顔を覗き込むレヴィアタンに気付きハッと我に返ったサタナエルは「何でもないよ」と一言、微笑むと夕食の準備をする為に台所へ消えていった。


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