序
この世界には人間と、天使と悪魔が存在している。
天使とはどこに存在するか分からない、【楽園】と呼ばれる場所で神に選ばれた【元人間】
神に反逆した天使は楽園から追放され、天使の資格を剥奪される。
所謂【堕天】だ。
そしてこの神殿にも堕天した元天使がいた。
ボゴミール神殿。
この神殿には数多くの信者が自分の罪を赦されようとやってくる。
信者の1人が謁見を許され、少女の前で膝をつく。
少女は年は10代の半ば頃だろうか。まだ幼さの残った姿をしているが、その佇まいは幼さを感じさせず、だからといって威圧的でもない。優しく包み込むような暖かな陽だまりのようだった。
「聖女様……サタナエル様……どうかお許しください」
信者は少女……サタナエルにすがるように話始める。
自分は妻を愛していた。
なのに彼女を病で失ってしまった。
もっと彼女のために必死になっていたら、死なせることはなかったのではないか。
信者の男は涙ながらにサタナエルに懺悔した。
白銀と空の瞳はただ男を映しており、その瞳は悲しみの色を映し出していた。
銀糸の長い髪を靡かせながら男の言葉を遮るでもなくただ聞き続けていた。
「私は罪深い人間です……大事な人を守ることさえできなかった」
「聖女様……私はこれからどう生きていけば良いのでしょうか……?」
「生きる希望が見つからないのです」
男が言葉を終える。
聖女は言った。
「私は貴殿を赦しましょう……。愛した人を守れなかった事……そしてそれを許せないと思う事を。
……その上で、貴殿にこう言いたい」
聖女は信者に歩み寄ると膝をつく。長い髪がふわりと床に落ちる。
「貴殿の愛した人は……貴殿を責めてなどいませんよ。
確かに病が大切な人を奪ったのは事実です。
でも貴殿がその方の為に必死になっていた事……彼女と生きたいと……もっと一緒に居たいと思っていた事……。
きっと貴殿の大切な人も知っていたでしょう。
それに……」
聖女はふわりと暖かな笑みを浮かべる。
「その方は貴殿にそれ以上自分を責めては欲しくないと思っているのではないでしょうか。
確かに大切な人を失ったのは悲しい事です。
でも大切な人と過ごしたかけがえのない時間が貴殿を癒してくれることでしょう」
───そして1歩踏み出せることを彼女も望んでいるはずですよ。
聖女はそう声をかけ、微笑んだ。
信者の男はずっと涙を零しながら言葉を聞いていたがふるふると身体を震わせ、気がついた時はガバッと彼女の手を取りずい、と顔を近付けていた。
「聖女様……いえ、さささ……サタナエル様……!」
「なんという……なんという慈悲深いお言葉!そして愛に溢れた立ち居振る舞い!!私は貴女様のような慈愛に溢れ、心も御姿も美しい方を見たことが無い!!!」
男はまくし立てるように聖女に言葉を発する。グイグイと顔を近づけながら。
聖女は目を丸くしている。
「サタナエル様……どうか……どうかわたくしめと……」
「ギャッ!?」
突然信者の男が悲鳴を上げる。彼は海のような髪の色の男に腕を捻り上げられていた。
「そこまでです」
海色の男は信者を睨みつける。
「それ以上無礼を働くなら、サタナエル様が許しても俺が許しませんので」
深海を思わせる光を宿さない青のオッドアイで睨まれる。信者の男はヒッ!と情けない声を上げた。
「ありがとうレヴィアタン。
私は大丈夫だから」
聖女は海色の男……レヴィアタンに優しく微笑み制止の言葉をかける。
レヴィアタンはチッと小さく舌打ちすると捻り上げていた信者の腕をパッと放す。
男は支えを失い尻餅をついた。
レヴィアタンは信者の男を睨みながら低い声で釘をさした。
「サタナエル様の慈悲深さに感謝する事ですね。
しかし……次は無いと思ってください。
次は……叩き潰す」
信者の男は顔を真っ青にすると聖女に軽く一礼するとそそくさと逃げ出して行った。
その様子を傍観していたほかの信者達がざわめきだす。
「聖女様……今、あの男をレヴィアタンって言った……!?」
「あの大罪の悪魔の……!?」
「殺される……!」
「聖女様に無礼を働いたら殺される……!」
「聖女様はあんなに可憐なのに、あの悪魔怖すぎるだろ」
レヴィアタンはざわめきの止まらない信者にイライラしながら再び舌打ちをしていた。
その様子を聖女のサタナエルは困ったような笑みを浮かべて見ているだけだった。
天使とはどこに存在するか分からない、【楽園】と呼ばれる場所で神に選ばれた【元人間】
神に反逆した天使は楽園から追放され、天使の資格を剥奪される。
所謂【堕天】だ。
そしてこの神殿にも堕天した元天使がいた。
ボゴミール神殿。
この神殿には数多くの信者が自分の罪を赦されようとやってくる。
信者の1人が謁見を許され、少女の前で膝をつく。
少女は年は10代の半ば頃だろうか。まだ幼さの残った姿をしているが、その佇まいは幼さを感じさせず、だからといって威圧的でもない。優しく包み込むような暖かな陽だまりのようだった。
「聖女様……サタナエル様……どうかお許しください」
信者は少女……サタナエルにすがるように話始める。
自分は妻を愛していた。
なのに彼女を病で失ってしまった。
もっと彼女のために必死になっていたら、死なせることはなかったのではないか。
信者の男は涙ながらにサタナエルに懺悔した。
白銀と空の瞳はただ男を映しており、その瞳は悲しみの色を映し出していた。
銀糸の長い髪を靡かせながら男の言葉を遮るでもなくただ聞き続けていた。
「私は罪深い人間です……大事な人を守ることさえできなかった」
「聖女様……私はこれからどう生きていけば良いのでしょうか……?」
「生きる希望が見つからないのです」
男が言葉を終える。
聖女は言った。
「私は貴殿を赦しましょう……。愛した人を守れなかった事……そしてそれを許せないと思う事を。
……その上で、貴殿にこう言いたい」
聖女は信者に歩み寄ると膝をつく。長い髪がふわりと床に落ちる。
「貴殿の愛した人は……貴殿を責めてなどいませんよ。
確かに病が大切な人を奪ったのは事実です。
でも貴殿がその方の為に必死になっていた事……彼女と生きたいと……もっと一緒に居たいと思っていた事……。
きっと貴殿の大切な人も知っていたでしょう。
それに……」
聖女はふわりと暖かな笑みを浮かべる。
「その方は貴殿にそれ以上自分を責めては欲しくないと思っているのではないでしょうか。
確かに大切な人を失ったのは悲しい事です。
でも大切な人と過ごしたかけがえのない時間が貴殿を癒してくれることでしょう」
───そして1歩踏み出せることを彼女も望んでいるはずですよ。
聖女はそう声をかけ、微笑んだ。
信者の男はずっと涙を零しながら言葉を聞いていたがふるふると身体を震わせ、気がついた時はガバッと彼女の手を取りずい、と顔を近付けていた。
「聖女様……いえ、さささ……サタナエル様……!」
「なんという……なんという慈悲深いお言葉!そして愛に溢れた立ち居振る舞い!!私は貴女様のような慈愛に溢れ、心も御姿も美しい方を見たことが無い!!!」
男はまくし立てるように聖女に言葉を発する。グイグイと顔を近づけながら。
聖女は目を丸くしている。
「サタナエル様……どうか……どうかわたくしめと……」
「ギャッ!?」
突然信者の男が悲鳴を上げる。彼は海のような髪の色の男に腕を捻り上げられていた。
「そこまでです」
海色の男は信者を睨みつける。
「それ以上無礼を働くなら、サタナエル様が許しても俺が許しませんので」
深海を思わせる光を宿さない青のオッドアイで睨まれる。信者の男はヒッ!と情けない声を上げた。
「ありがとうレヴィアタン。
私は大丈夫だから」
聖女は海色の男……レヴィアタンに優しく微笑み制止の言葉をかける。
レヴィアタンはチッと小さく舌打ちすると捻り上げていた信者の腕をパッと放す。
男は支えを失い尻餅をついた。
レヴィアタンは信者の男を睨みながら低い声で釘をさした。
「サタナエル様の慈悲深さに感謝する事ですね。
しかし……次は無いと思ってください。
次は……叩き潰す」
信者の男は顔を真っ青にすると聖女に軽く一礼するとそそくさと逃げ出して行った。
その様子を傍観していたほかの信者達がざわめきだす。
「聖女様……今、あの男をレヴィアタンって言った……!?」
「あの大罪の悪魔の……!?」
「殺される……!」
「聖女様に無礼を働いたら殺される……!」
「聖女様はあんなに可憐なのに、あの悪魔怖すぎるだろ」
レヴィアタンはざわめきの止まらない信者にイライラしながら再び舌打ちをしていた。
その様子を聖女のサタナエルは困ったような笑みを浮かべて見ているだけだった。
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