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short story


初めて、その子を見つけた時なんて美しい子だろうと思った。無垢なその魂も、透き通るような銀糸の髪も銀と空の瞳も魂に見合った美しさだと思った。

けれどその子は何かあると困ったような笑みを浮かべるのだ。

……勿体ない。
私ならそんな表情はさせない。あの子を本当に幸せにしてあげることが出来るのに。
そう思ったのが『サタナエル』を楽園に招いた理由だった。



「おいで、サタナエル」
「私の愛しい子」

そう言い目の前に立つ天使の少女を自分の元へ呼んだ。男性だったこの子を少女の姿へと変えたのは私だ。無垢な魂には無垢な少女の姿が似合うだろう?

「………………」

サタナエルは表情一つ変えず私の側へやって来た。そんな彼女を壊れ物を扱うように抱き抱えると自分の膝へ座らせた。

「可愛い」

彼女の頭を撫でながら囁く。

「とても可愛いよ」

彼女は反応を返さず無言だったが気にとめず彼女に口付け、愛の言葉を囁き続けた。

「愛しているよ……私のサタナエル……」

「………………」

彼女はただ一線を見つめるだけだった。その時は気付かなかったのだ、あの子の瞳は……魂は何も映してなどいなかったことを。




『天使の楽園』

そう呼ばれるこの地に呼ばれてからどれほど時間が経っただろうか。天使達から『神』と呼ばれる男に呼び出される時以外は外出は許されず、塔に隔離されているから時間の感覚がまるでなかった。

でもそんな事はどうでも良かった。

だってここには私にとって大切な人達は居ないから。

外出も叶わない今となっては会いに行きたいと願っても叶わない。もうあの2人に会えることは二度とないのだろう。

そう思えばここに来て直ぐに姿を帰られたことに対してもなんの感情も湧かなかった。謝る相手がいないのだから。

「………………」

2人は元気に暮らしているだろうか。外部と連絡を取る事も許されなかったからどうか平穏な日々を暮らして欲しいと願うことしか出来ない。

「サタナエル様」

扉が開かれ、光が差し込む。

「我らの神がお呼びです」

今日も呼ばれたのか。
その事実をなぞるだけして部屋を後にした。






「……サタナエル、君はどうすれば私に笑顔を見せてくれる?」

いつものようにあの子を膝に置き、頭を撫でた後口付けそう問う。けれどあの子から反応が返ってくることは無かった。困って頬を撫でても反応は無い。

さらに困って瞳を見つめるとその時やっと気付いた。

この子が見ているのは私ではない。
私だけでは無い。
その瞳は何も映さず、ただ闇だけが広がっていた。

どうして、そんな目をしているのか。
どうして、何も答えてくれないのか。

分からなかった。何も分からなかった。
ただ一つだけ分かったのは私ではこの子を幸せにしてあげることが出来ない。

その事実だけだった。

ならば私にしてあげることが出来るのはこの子を自由の身にさせてあげることだけだ。

そうしてサタナエルを堕天させることを選んだ。




ここでの生活が終わりを迎えたのは突然の事だった。
神に愛されたにも関わらずその愛を受けず傲慢な態度を取った罰だと天使達は私を責めた。

でもそんなことはどうでも良かった。
堕天……つまり楽園からの追放。
……自由になれるの?
またあの二人に会える?
また一緒に暮らせる?
どんどん溢れてくる実感に止まっていた時間が動き出したようだった。天使達からの罵倒の言葉は頭に入ってこなかった。

ふと、天使達の後ろにたっていた神と目が合った。

『ごめん』

なぜだかそう言われたような気がした。




楽園をさり走って2人のいる家へ急いだ。
1秒でも早く彼らに会いたかった。

家の前に着いた。そうすると途端に怖くなった。

私の事を覚えていなかったら……。
私だと分からなかったら……。

その恐怖から扉を開く事を躊躇していると勢いよく扉が開き、白いツインテールが私に抱きついた。

「おにぃさま!えるおにぃさま!」

白いツインテールの少女が妹のサタナキアだと気付くのに時間がかかった。ナキアは大粒の涙を零しながら強くしがみついてきた。

「みため、かわりましたが なきあには わかります!えるおにぃさまです!おにぃさま、どこにいっていたのですか」

「なきあ、わるいこだった、ですか?ごめんなさい、ごめんなさい。いいこにしますから、もうおにぃさまをこまらせませんから、なきあをひとりにしないでください。どこにもいかないで、ください……!」

「ナキア……」

泣きながら行かないでと訴えるナキアを見て泣きそうになる。

違う。

違う。

ナキアは悪くない……。

全部、私が……。

「……エル」

「レヴィ、ア……」

奥からレヴィアタンが……私が一番会いたいと願っていた彼が居て、私に近付いてくる。
レヴィアを見てとうとう涙が堪えられなくなった。

「レヴィア……ごめんなさい……私……」

「私……っ!」

「大丈夫。分かってるから」

そう言うと微笑み、抱き寄せられた。

「……お帰り、エル」

「………………っ」

「レヴィア……!居たかった……ずっと一緒にいたいって……!でももう叶わないって……」

「うん」

「もう二度と会えないって……!それをどうすることも出来なくて……私……っ」

「大丈夫」

「これからはずっと一緒だから」
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