爆豪くんと垂れ耳うさぎちゃんシリーズ
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うさぎの個性だから、音に敏感な名前ちゃん。従兄弟であるミルコさんほどではないものの、垂れ耳とは言え、一般の人より断然耳がいい。大きな音は得意じゃない。そういうのもあって、今まで誰に誘われても行った試しがなかったんだけど、電話中にふと、思った。
勝己って歌も上手そう。
「どっか行きてぇとこ、あっか?」って訊かれて、思い付いたまま「カラオケ……」って口にしちゃった。
人生初めてのカラオケ。
狭い場所も薄暗い場所も嫌いじゃないし、何より隣に爆豪くんが居てくれる。緊張しいのちゃんにしては、そこまでどきどきしなくて済んだ。むしろ、わくわく。やっぱり、爆豪くんと一緒だと安心感が桁違い。
名前ちゃんのために音量調節に余念がない爆豪くん。何も言わなくても「こんぐらいならいけっかよ?」って察して全部セッティングしてくれる上に、「こうやって出てくんだわ」ってドリンクバーの使い方まで付きっきりで懇切丁寧に教えてくれる。さすがにそれはわたしでもわかるよ〜……って思うけど、細やかな配慮が嬉しくてぷにぷにほっぺたが緩みっぱなし。
うさぎちゃんのリクエストに沿って持ち前の美声で明るくてアガるような歌をかなーりボリュームを絞って一通り披露してくれた後、選曲がしっとりとした恋の歌だったりなかなかに際どい歌詞の歌だったりへと徐々に徐々に変わっていく。明るさを落とした個室で心に迫るメロディーが流れる中、ぴったり密着してふかふかのお耳とか尻尾とかを絶妙な加減でさわさわされると、危惧していたのとは違う意味でどきどきしてきちゃう。うさぎちゃんにとってはどっちも性感帯。とても平常心ではいられない。女の子の秘密の花園がざわざわ。
「わ、わたし……野菜ジュースお代わり!」って歌の最中で部屋から命からがら逃げ出して来ちゃう。発情期じゃなくて良かった。聴きたいって言って連れて来てもらったくせに、せめて歌い終わるまで待ってから……でも、あまりにも色っぽくて無理だったから……頭の中がぐるぐるでふらふらしながら、ドリンクバーへ。
爆豪くんから教わった通りにボタンを押してお行儀良く待機。いきなり誰かに肩をとんとん叩かれて、平常時なら近付いて来たらすぐに気付くはずなのにってふわふわしている頭で振り返って——耳が浮く。尻尾の先まで身体が強張る。
「名前ちゃん? 大事な用事あるんだって言ってなかったっけ?」
「ええっと……」
そこに立っていたのは、キャンパスでよく声を掛けてくる男の子。ちょっぴり苦手な子。まさか、こんな場所で講義のない日にまで遭遇するなんて不測の事態。昨日も食事に誘われて、今日のことをしどろもどろに断ったばっかり。
向こうも一人じゃないらしく、学外の友人らしき男の子たちが「どうした?」ってわらわらやって来る。困り果てる名前ちゃん。今まで爆豪くんに迷惑が掛かるといけないからって、彼氏が居ることすら黙ってたんだけど、こうなってくると他にいい手立てが浮かばない。
「大事です……大事な、用事。彼、と。デートだから……」
辿々しくも、はっきりと意思表示。ショックを受けてる男の子の表情もろくに確かめず、不思議な小説に出てくる急いでばかりの白うさぎのようにそそくさと部屋に戻る。お耳も尻尾も白くはないんだけど。爆豪くん以外はその赤くもない目には入らない。
「あれ? 勝己……?」
爆豪くんが、見当たらない。お手洗いかなってテーブルの上を見たら、あるはずのグラスがないことに気付く。頭から冷水を浴びたような心持ち。
案の定、戻ってきた爆豪くんの手には満杯になったグラス。「便所」って先回りして吐かれる明らかな大嘘になんて言葉を返せばいいか戸惑っていたら、「場所変えっか」ってさりげない風を装って提案してくれる。こくこく。頷いて、マイクを受け取る。最後に一曲だけ。流行の歌には詳しくないし、人前で歌うのは恥ずかしいし……けど。勝己の前でなら。
遠慮し続けてきたマイクをしっかり握って、深呼吸。曲は幼い頃によくお母さんと歌った『きらきら星』。小さな声でもごもご。「ったく、世話焼けンな」って爆豪くんが優しく微笑みながら「おそらの?」「ほし、よ……」って促すようにデュエットしてくれる。
お陰で、気持ち良く和やかに笑顔で終われた。『きらきら星』のお星様よりもきらきら。
2024.09.27 (初出 2023.06.24)