あー、はいはい、またかよー。面倒だなー。でも、俺、優等生だし？

渋々、後輩ちゃんに付き合ってあげる燈矢くん。無論、そっちの意味で付き合う気はゼロ。作り笑顔を浮かべて右の耳から左の耳で話を聞き流しながら、後輩ちゃんの言葉が途切れたところで、感情を込めて「ごめん。俺、ヒーローになるまでは誰とも付き合わないって決めてるから」って定型句をお見舞い。同じ雄英生にとって効果絶大な断り文句。
しょんぼりした様子にあと少しで解放されるって確信した矢先……「じゃあ、いいです……エンデヴァーに推し変します……」って予想だにしない答えが返ってくる。「あァﾞ？」思わず、優等生にあるまじき素の声が出ちゃう。お父さんの名前を出されたらスルーする訳にはいかない。
「今、なんて言った？ その口でさ、俺のこと好きって言ったばっかじゃん」「一つのこととか人とかに執着するのって良くないと思いませんか？」「それ、告った直後に相手に言う？」「先輩こそ、振った直後の相手に講釈垂れるんですか？」
可愛くない言い方にカチーン。
「ハッ、お父さんがお前みたいなの相手にするはずないだろ。この、ブス！」「自分が恵まれてる側だからって恵まれてない側の容姿をとやかく言うのはどうなんです？」「顔のこと言ってんじゃないの、俺は。心のこと言ってんだよ。この、ちんくしゃ！」「轟先輩って随分と口汚いんですね！ 惚れ直しました！」「多情かよ。迷惑だから他当たってくれない？ 無理なんだよね、目移りするような女」「じゃあ、一途に想い続けるので恋人にしてください！」「やだ」「私、１年Ａ組の苗字名前って言います！」「やだって言ってんだろ」

……明確に意思を示したにもかかわらず、翌日以降も懲りずにやって来る後輩ちゃん。ビジュに惹かれてよく知りもしないのに上辺だけの告白をしてくる女子たちと気骨の違いを見せ付けてくる。
「轟先輩！」「無理」「好き！」「無理」「恋人にして！」「無理」「お父さんに紹介して！」「お父さんのことお父さんって呼ぶな！ お前のお父さんじゃないんだからな、俺のお父さんだからな！！」「好きな物が一緒だと距離が縮まるのも早いですね♡」「お父さんを、物扱いするな……！！」
そんな感じで日参してくるものだから、轟ブランドを死守するために被ってる猫を全脱ぎで毎日ブチ切れ。でも、歳下だと思ったら長男なのが災いしてなんだかんだで相手にしちゃう。うっかり面倒を見ちゃう。

すっかり後輩ちゃんに絡まれるのが日常と化した頃、何とはなしに「よく飽きないよな」って溜息混じりに吐き捨てたら「飽きるはずないじゃないですか。叶うなら、これからも燈矢先輩とお喋りしてたいです。だって、好きなんだもん……」っていつになく神妙な態度を取られてちょっぴり心を動かされる。「その割には初っ端から最悪な突っかかり方してきたろ」「どうしても、顔と名前だけでも覚えてもらいたくて……」今までずっと、無理して小憎たらしいキャラを作って演じていたことが判明。改めて、「私、先輩がヒーローになるまでちゃんと待てますから」って大真面目に告白されて遂に心が揺らぐ。


「お父さん。俺、将来、ペット飼おうと思ってるんだ」「ほお。何を飼うつもりだ？」「ちん」「なんだ？ ああ、犬か……？」「そう。信じらんないくらい不ッ細工なヤツ。でも、なんか構いたくなるんだよなあ。そのうち、お父さんにも紹介するよ。名前っていうんだ」「もう名前まで決めてあるのか。気が早いな」



2024.07.15(初出 07.09)