バレンタインデー(爆豪、焦凍)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……ンだ、これ」「見てわかんない? 義理チョコ」
元から期待なんかはしていなかったけど、喜べばいいのかがっかりすればいいのか……舌打ちをする爆豪くん。やっぱり、喜べない。
寮の共有スペース。右を見ても左を見ても一様にラッピングされた手作りチョコレート。「大丈夫だって! 砂藤くんの力作だから、味は保証するよ」「いや、そんなことねぇだろ。ほとんど苗字が作ってっから」察して爆豪くんの顔色を窺う砂藤くん。
クソ真面目で完璧主義の彼女が不味い物を寄越してくるはずがないってのは、重々わかってる。問題はそこじゃない。……女子連中と一緒ならまだしも、なんで砂藤と『二人』で作ってンだよ。あと、なんで『おんなじ』なんだよ。
「おおんッ、苗字の手作りチョコぉぉぉ……!!」って感涙に咽ぶ峰田くんが視界に入って無性にイライラしてくる。三年最後のバレンタインにこいつと寸分違わない代物とか終わっとる。完全に脈なし。「嬉しいのはわかるけどさぁ、さすがに喜び過ぎでしょ」って引き気味の響香ちゃんを筆頭に女の子たちの手にも同じチョコ。クラス全員男女平等分け隔てなく。水色のリボンがかかったラッピング。
「むっ? これは一体なんの催しだ?」
連れ立ってやって来る飯田緑谷それから、轟……の仲良し三人組。「ああ、名前ちゃんがうちら全員にチョコ作ってくれてね! もちろん、轟くんのもあるよ! ねっ、名前ちゃんっ!!」余計な気ィ回してンじゃねぇぞ、麗日。いや、ムカつくから丸顔。黙っとけや。仲良しのお茶子ちゃんに背中を押される形でおずおずと彼女が進み出る。「焦凍くん、あの、これ……良かったら……」「ありがとう」轟くんの顔に浮かぶ、取り繕ったような微苦笑。誰も何も言わない。茶化したりからかったりしない。同じくそれを傍観者として眺めて、なんとも言えない気持ちになる。
こんなの、嬉しいはずがない。ただ、渡した側は気付いてない。渡された側の気持ちなんか。実質の、死刑宣告。
「よ、良かったね! 轟くん!」「ああ」緑谷くんの一言で賑わいを取り戻すクラスの面々。いい訳ねぇだろ。でも、そう言うしかない難しい立場。わー、僕にまで? う、嬉しいなあ……自身もチョコを受け取って眉尻を下げつつちらちらと視線を送ってくる緑谷くんに、目を眇めて返事の代わり。てめェはどっちの味方だよ。
しっかし、茶番繰り広げやがって。両想いだって永遠に気付かなきゃいい。死ぬまでやってろ、鈍感クソ女とクソ舐めプ野郎。
……クソが。しっかり、轟のだけリボンがピンクじゃねぇかよ。やってらンねー。けど、わざわざ教えてやる義理なんかどこにもねぇわ。
部屋に戻る間際、ラッピングのリボンが見えてしまわないように手のひらで握って隠しながら「俺もお前と『おんなじ』の、貰ったわ」ってご丁寧に報告して焦凍くんの肩を気安く叩く。「『みんな』貰ってんだもんな、あいつから」って覇気を欠いた返事を聞いて吊り上がる口角。
こんな見え透いた嘘を焦凍くんが真に受けるとは思わなかったし、この意地悪が決定打になって、彼女と焦凍くんが擦れ違ったまま卒業するだなんてそれこそ思わなかった。
後味の悪さと、ほんのちょっぴりの罪悪感。その罪悪感が残る限り、彼女に伝える気にはなれそうにない。好きだって。ずっと前から、好きなんだって。
2023.02.14(再掲)