お誕生日シリーズ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日だけ、今日だけは! 平穏な一日であってほしかったのに……!!
本来は非番だった。随分前からお休みを頂くことになってた。だけど、テレビで流れた速報を目にしちゃった以上はもう、駆け付けるしかない。焼成途中のケーキをほっぽり出して、エプロンを宙に舞わせた。うちの事務所の管轄区域。携帯にはなんの連絡も入ってなかった。みんな、気を利かせてくれたんだ。私が休暇を欲する理由をはしゃいで触れ回っていたから。
結果的には急行して正解。事件の解決には私の個性が最適だった。被害を最小限に抑えられたと思う。それでも、直近では類を見ない凶悪犯罪。日付が変わる前に決着をつけられたっていうだけで、奇跡的。不幸中の幸い。
「名前!」
……アドレナリンが出っぱなしなせいもあって、バクバクし過ぎて心臓が止まりそう。消太さんって名前を呼ぶより先に、抱きすくめられちゃった。5分前行動苦手ですみませんって、おどけてみようかなあ。なんて、ドアを開ける前に頭の中で台詞を用意してたのに。学生時代、よく注意されたっけ。5分前どころか、あと5分しかない。
「無事で良かった……」「す、すみません……私、居ても立ってもいられなくなっちゃって……」「謝る必要がどこにある」「だって……」
今日は、消太さんのお誕生日。
一緒にお祝いしましょうねって、前々から約束してた。こういう関係になって、二人で過ごす初めての記念日。私にとっては数年越しの想いが報われた、特別な一日となるはずだったのに。
「いい。お前が無事ならそれでいいさ」「せ、せんせぇ……」「おいおい、泣くヤツがあるか。それに、こんな冴えない中年捕まえて 『先生』じゃ嫌だって口説いてきたのは名前、お前だろ?」
どうしても諦め切れなくて、生焼けのケーキを再加熱。時短したせいで角が立ってない生クリームを塗りたくって、不格好なバースデーケーキが完成。予定していたオードブルは素材のまま、出せそうな物だけ冷蔵庫から引っ張り出した。
「お腹壊すような事態にはならないと思うんですけど……」「それはそれで感慨深いものになるな」「隠し味は乙女の涙ってことで……」「どうせなら、そこは笑顔にしておいてくれないか」
本当の意味で、先生の生徒を卒業できるのはまだまだ先になりそう。
「消太さん、お誕生日おめでとうございました!」
2023.11.08